ドクターNと夢の世界14
媚薬の案件から僕は何も聞かず言わず、知らないふりを続けた。
余計なことに首を突っ込みたくないしね。
でもいまだ使ったという報告も聞いていないから、あれは本当に使うか使わないかはぎりぎりの判断になるんだろう。
というか、まともなやつなら使わないと思うんだけど。
それより王太子殿下ってそこまでしないとだめなの?
バタバタと騒がしく侍女が入ってきた。
ここは王城の医療所、決して躾のされていない侍女がバタバタと入ってくる場所ではない。
というか、侍女自体もここまでバタバタするのは久々だ。
ここにいるのが僕だからと侮っているのだろう。
「聞きました?」
「何が」
興奮気味の侍女に冷たく返すと、侍女はコホンと姿勢を改めそれでも前のめりに言った。
「あら、ご存じないんですか」
「だから、何を」
「あの子爵令嬢と伯爵令嬢と侯爵令嬢が鉢合わせたことを」
「何その三すくみ」
「いえ、三人一緒ではありませんわ」
「だよね。そんな怖い鉢合わせ、王城の誰もが許さないよね」
「ですが、偶然、伯爵令嬢が現れて子爵令嬢に当たり散らされ、さらに伯爵令嬢に挨拶されたらしいですよ」
「それ、偶然かねぇ」
「偶然でも必然でもどちらでもよろしいですわ」
「それで今日はざわざわとしてたのか」
「先生はどちらに賭けます?」
「はい?」
「新年会の随伴、誰だと思います?」
「普通に考えれば、子爵令嬢かな」
「まああああ、そうですか?」
「なんでそんなに驚くの」
「いえ、伯爵さまがかなり力を入れているとか」
「というか、さらっと君言ったけど、賭けるって何」
「まあ、そんなこと私言いました?」
「言った、言った」
「身分からいくと侯爵令嬢様は外せませんわよね」
「何さらっと無視してるの」
「子爵令嬢様は今のところ本命枠で賭けが少のうございますわよ」
「そんな丁寧に言っても不敬でしょ」
「もう一つの大穴はいかがです?」
「大穴?」
「宰相補佐様」
「はあ?」
「あの媚薬の使い道、どうするんでしょうね」
「何怖いこと言ってるの」
「間違えて、二人でお茶の時間に使ったりなんかしたら…うふふ…」
「いや、ちょっと、あの薄い本みたいな妄想止めて…」
* * *
目覚めて頭を抱えた。
なんか、BLみたいな展開になってたけど、どこの世界にもいるんだなぁ。
いやいや、あいつがBL展開って、笑い話にしかならないんだけど。
どこかにいるナーベ宰相補佐さん、大変だなぁ。
「え、先生知らないんですか」
「何を」
外来で看護師の一人が言った。
ちなみに患者は今いない。
「先生と入江先生のBL冊子、ありますよ?」
「うえっ」
「入江先生と大蛇森先生とか、入江先生と鴨狩君とか」
「それ、どんな世界?」
「大蛇森先生のは、薬盛る話だったかしら」
「わあ…」
「鴨狩くんって、かつて琴子ちゃん好きだったんじゃないの?」
「だからそこからの恨み反転…ってやつですよ」
「まさかと思うけど、僕との話は…?」
「あー、なんか入江先生の人気に嫉妬して、だったかしら」
「どういう展開だ、それ」
「どうって…あ、次の患者さん呼びますねー」
「え、ええ?おい」
世の中いろいろ間違ってる。
いや、僕だけがおかしいのか?
いいや、そんなことはない!
おかしいのはこの斗南病院の面々だ!
…と思う。
いや、多分…。
(2023/12/30)
To be continued.