坊ちゃまとあたし特別編2



緩んでるキャンプ1


中学二年の夏、今でも思い出したくない悪夢のキャンプがあった。

それは行きたくもない学校行事。
誰が決めたのか、真夏の暑い中、都内よりは標高の高いキャンプ場へと斗南中学二年生一行は出かけることになったのだった。
都内よりは涼しい。
今時そんなことでつられる小金持ち子息や子女たちがいるだろうか。
斗南学園と言えば、そこそこ親が小金持ってる生徒が多いので、長期休暇には海外にも行くし、別荘だって行ったことがあるだろう。

「わあ、ちょっと涼しい〜」

いたな、そう言えば。
小金持ちとは程遠い庶民派だった。
生徒よりもやや喜んでいる相原琴子、23歳独身国語科教師。

「キャンプと言えばやはり山だな」

もう一人いた。
庶民派どころかやや苦労性なこの真夏に暑苦しい熱血教師、鴨狩啓太、社会科教師。
こいつは自覚があるのかないのか、琴子の周りをうっとおしくうろついている。
また、周りが煽るものだから、少しずつその気になっている。
そして俺のことは成金息子で多少頭の良い偏屈で友だちのいないかわいそうな生徒、だと思っているふしがある。
あながち間違ってはいないかもしれないが、腹は立つ。
実際腹を割って話す友人などいない。
学校ですら余程琴子以外とは話さない。
そしてその琴子に執着していると思われているからかわいそうな生徒、というわけだ。
幼い頃からそばにいるから、誰かに取られないように見張っていると思われている。
その通りだが、それが幼い独占欲と思われているところが余計に腹が立つのだ。
十歳も差があって本気だとは思われていない。
それが鴨狩どころかもちろん琴子も気づいていない。
ますますもって腹が立つ。

希望者が行くこのキャンプ行事は、琴子が付き添い役でなければ申し込んでなんていなかった。
いつもろくでもないことしか起こさない琴子がキャンプなんて行けば、さらにろくでもないことしか起きない予想しかつかない。
何が起こるかなんて、琴子がいる限りわからない。
ハイキングで遭難するのか、クマが出て襲われるのか、キャンプ場が陸の孤島にでもなるのか、キャンプファイヤーが文字通りファイヤーと化するのか。
できるだけ阻止したい。
起こるのを止められる気はしないが、できるだけ被害を少なくしたいと思っている。
果たしてそれがうまくいくのかどうかなんて、終わってみるまではわからないのだ。
今はよくても次の瞬間何かが起こるかもしれないのだから。

そんな風に思って参加したキャンプだったが、文字通り悪夢のようなトラブル続きで、翌年から中止になるかもしれない危機となったのは、まぎれもなく多分琴子が参加したせいだったに違いない。
誰も口にはしなかったが、翌年恐る恐る開催したキャンプでは、琴子がいないだけでスムーズに終わったらしいことを伝え聞くと、やはり琴子一人いるだけで、トラブルまみれのとんでもキャンプになることは最初から決まっていたようなものだったに違いない。

(2023/07/08)

To be continued.