国家試験は本当に頑張った。
それこそ今までにないくらい…えっと、高校受験の時やあの高一の時の中間テストの時もあれはあれで相当頑張ったのだけど、それ以上だったと思う。
それに受からなければあたしの二年間がすべてが無駄になるところだったもの。
頑張って頑張ってすべてを出し尽くしたつもりになって、ようやく合格を手にしたとき、さすがのあたしも胃痛から解放された!と思った。
そして、神戸の入江くんの所へ行ったとき、一晩野宿するつもりでいたところを入江くんの愛の力ですれ違うこともなくちゃんと会うことができて…。
「…ここに円形脱毛症ができてるぞ」
そう言ってあたしの頭の後ろを指した。
「え、円形脱毛症?」
「おまえ、勉強したんだよな?!」
「当然よ!」
「国試に受かったんだよな?!」
「もちろんよ!」
「…十円ハゲだよ」
「へ?」
「ここにハゲができてる」
「うそっ」
あたしのストレスは、なんとハゲができるほどだったのだ。
しかも、それを入江くんに指摘されるなんて!
幸い、ハゲが小さかったのと、髪が長かったせいで目立たなく済んだ。
何たる屈辱。
もう二度と!二度とハゲは作らないわ!
* * *
「なーんて思ったこともあったわね」
隣で寝ている入江くんを見ながら、あたしは入江くんの額を凝視する。
お義父さんも薄かったし、佐賀のじいちゃんも薄かったし、遺伝だとするとそろそろヤバイ、わよね?
前から?横から?それともてっぺんから?
入江くんがハゲるとしたらどんな感じかしら。
裕樹くんもそろそろなんだかヤバいわよね。
そりゃ入江くんがハゲるなんてちょっとかわいそうだけど、入江くんならきっとハゲたってかっこいいと思うの。
ほら、ブルースなんちゃらとか、俳優さんにもいたじゃない。
個性派でいいかもよ。
それに入江くんなら毛生え薬というか、予防の薬とか、発明しそうじゃない?
入江くんがちょっと気にしだしてるの、あたしにはわかってる。
うんうん、ハゲてるなんて言われたらちょっとショックよね。
薄くなってきた?も禁句かしらね。
知らないふりってのも難しい。
だって、入江くんに隠し事してもすぐにばれちゃうんだもの。
ここは子どもたちにさりげなく指摘してもらった方がいいかしら。
それとも…。
「だからね、ハゲにはいくつか種類があって、いわゆるM字、U字、O字と呼ばれるのが一般的でね、ストレスによって全体的に抜けるというのもあるんだけど、男の人の場合はやっぱりジヒドロテストステロンの影響が大きくて」
「ス、ストップ!」
「もう、ママが聞きたいって言ったんじゃない」
「そんな詳しく聞きたいなんて言ってない」
「じゃあ、何?何が聞きたいの?」
「つまり、入江くんは薬を使った方がいいってこと?」
「でも使うと副作用で性欲減退などの影響が…って、パパは少しくらい減退したほうがいいんじゃない?」
「そ、そんなことは…」
「パパはそんなのとっくに気づいて絶対自分専用の毛根に効く新しい薬開発してると思うよ」
「まさかぁ。薬は入江くんの分野じゃないじゃない」
「いいえ、絶対作ってる。誰のためとかじゃなくて、自分のために。パパってそういうとこあるし」
「そうかなぁ」
「ついでに裕樹おじさんの分も開発するくらいの優しさはあると思うけどさ」
「ぷぷぷ…そうだといいね」
「まあ、おじいちゃんの毛根はもう手遅れっぽいけど」
「ちょ、そんなこと言っちゃだめよ」
「わかってる。でも、性欲減退なんてパパが認めるわけないからね」
「ヤダ、娘がそんなこと口にして」
「ママものん気にそんなこと言ってる場合じゃないと思うけど」
「えー?」
…なんて会話したこともあったわね。
「琴子、性欲減退してるかどうか確かめてもらおうか」
あたしはじりじりと追い詰められている。
何でこんなことになったんだっけ。
「さ、愛にハゲんでもらおうか」
入江くんの意地悪そうな笑顔にあたしは壁に張り付いたまま白旗を上げたのだった。
(2025/11/24)