イタKissの国からこんにちは



ある日ワールドワイドな夢を見た。

「そないなことでは立派な大阪人になられへんで」
「で、でも、そんなエセ関西弁、とてもあたしには…」

「そんなことでは立派な国際人になれませんわよ(英語)」
「そんな思いっきり英語で言われても…(英語)」
「いや、それ日本語ちゃうん?」

「ちゃっと名古屋に来んか」
「な、名古屋?」
「いや、関西やな」

「そがんことでは立派な九州人になれん」
「べ、別になろうと思ってない…」
「やっぱ大阪やな」

「うちなーやちゃーだい」
「???」
「いやー、うちもわかれへんわ」

ずんずんと何か大きなものが近づいてきた。
白い、大きな、奇妙な顔をした、手を広げたもの…。
あ、あれは何…?!

 * * *

「で、どこがワールドで、ワイドな話なんだ」
「え、えへ」

ガバリと起き上がって、隣から入江くんがなんだこいつ、という視線を送ってきた。
夫婦の目覚めのあいさつにしては冷たくない?

「なんかいろんな言葉で大阪人になれだの、名古屋に来いだの、いろいろ言われたのは覚えてるんだけど」
「それは、日本人からの誘いだろ」
「ま、まあ、グ、グローバル?と言えなくもないかな、とか」
「おまえにしてはまともな言葉が出てきたな」
「最後に出てきたのは何だったかなぁ」
「どうでもいいからそろそろ起きろよ」
「えー、せっかく早起きしたからもうちょっとゆっくり夫婦の会話をしない?」
「どこが早起きなんだよ」

枕元で目覚ましが盛大に鳴り出した。
入江くんって、たいてい目覚ましより早起きよね。
何で起きられるのかしら。

朝から甘い雰囲気も何もなく、入江くんはさっさとベッドを後にした。

 * * *

入江家の食卓では、既にもっと早起きしたお義母さんが朝食を並べていた。
リビングの奥ではテレビから今日のニュースをやっている。
そこに、何か見覚えのあるものが…。

「あー!あれ!あれよ、あれ!」
「あれあれうるさいよ」

入江くんと同じようにリビングで新聞を広げている息子が文句を言う。
でも興奮したあたしにはどうでもいい。
だって、多分あれよ、あれ。
テレビの画面に映っている巨大建造物。
思わず指さしながらテレビに近づく。

「なんだっけ、これ」
「太陽の塔でしょ」

呆れたように息子が言った。

「そんな名前だったっけ。なんでこんなものが」
「また大阪で万博があるから注目されてるんじゃない」
「これ大阪にあるんだっけ?またって?」
「前にも大阪で万博やってる。太陽の塔はその時に作ったやつだよね」
「だってその時代に生きてないもん」
「1970年だから僕だって生きてない」
「そりゃそうよねー」

夢の中で迫ってきたのって、確かこれよ。
こんなふうに手を広げて、こんにちは〜って。
あたしの独り言を聞きつけたのか、息子が首を傾げる。

「なんで太陽の塔があいさつするんだよ」
「あら、あれじゃないの?ほら、世界の国から〜って歌ってたじゃない」

そう言ってお義母さんが歌いだす。

「あー、あれですか。なんだか聞いたことあります」
「なんであれあれで会話が成立するんだろう」
「人間歳をとると記憶があいまいになってくるんだよ」
「そっかー」
「失礼な!」

息子の言葉に入江くんがやけに真顔で言う。
歳をとるとって、あたしはそんな歳じゃない。
あ、だからと言ってお義母さんが歳をとってるって意味じゃないからね。

「太陽の塔なのに歌ってるのはあの人だなんて、変な夢だったわ」
「そんなことより次の万博が大阪らしいけど、行けるといいな」
「今度っていつ?2025年かぁ。あたしいくつかな…」

作者注:2025年大阪万博が決まったのは、2018年のことでした。

(2025/09/27)