mizさま 1000hitキリリクで『デート前夜の続き』と言うことで、デート編になります。
目が覚めると入江くんはもう起きていて、あたしは一瞬今日も仕事だったかと寝ぼけた頭で考えた。
日はもうすでに高く上っていて、まだ暑い夏の名残で寒くも何ともないんだけど…。
肩までしっかり掛けられた布団の下を見て思わずぎょっとした。
…何も着ていなかった。
そういえば…思い当たることは…少し。
上半身を起こしたあたしの素肌を布団が滑り落ちていく。
うわ〜〜。
別に誰も見ていないのに、一人あせって布団を身体に巻きつける。
い、入江くんが来ないうちに着替えよう…。
あたしは布団の上に置かれている自分の下着とパジャマをつかみ取った。
その瞬間、軽い音と共に寝室のドアが開いた。
「わ、わっ!」
現れた人影にあたしは驚いて、ベッドの下にパジャマを落としてしまった。
現れたのはやっぱりと言うか、もちろん入江くんで、何やってるんだとでも言いたげな顔だった。
「…お、おはよう」
あたしはつかんだ下着を布団の中に滑り込ませて中にもぐる。
「いい加減起きろよ」
「…う、うん。わかってる」
あたしはもそもそと布団の中で苦心して下着を身につける。
布団から再び顔を上げると、入江くんはかすかに笑った。
「落ちたぜ」
パジャマを拾い上げて布団の上に置いてくれた。
あたしの様子を見に来てくれたのか、起こしにきてくれたのかと思ったら、ベッドサイドテーブルに置いた本を取りに来たらしかった。
頭の上の時計をチラッと見るとすでにお昼近い時間を示している。
「あ〜〜〜!」
急に大きな声を出したので、入江くんは嫌そうな顔をした。
「ったく、うるさいな」
「だって、デート!してくれるんだよね、入江くん」
「…………まあな」
その長い間は何?
嫌なのかな、やっぱり。
「ねえ、入江くん、ランチ食べに行って〜、服を選んで〜、買い物して〜それから…えーと」
「だったら早く着替えろよ」
「うん、今着替える」
そう言ってベッドから起きだしてハッとした。
…そう言えば下着のままだったんだー。
このままもう一度布団の中にもぐろうか、開き直ってパジャマを着てしまおうか、一瞬考えたばかりにベッドの端に座ったまま固まってしまった。
入江くんはごく普通に「早くしろよ」とだけ言って寝室を出て行った。
今更このあたしの下着姿見たって、入江くんにとってはどうってことないのね…と落ち込む羽目になった。
せめて、胸がCカップでもあったら、もう少し自信を持って下着姿を披露できるに違いない。
でも今のあたしは、多分Cカップあろうがなかろうが、やっぱり入江くんの前で自分の身体をさらすなんてできない〜という結論に達した。
なんだかあたしって、いつまでも入江くんに片思いみたいだ。
今日だって、デートしてもらえるってだけでこんなにうれしいんだから。
* * *
目覚めるとすでに時計は10時を回っていた。
琴子はまだ起きない。
相変わらず寝相は悪く、肩から胸にかけて布団がめくれても気持ちよさそうに眠っている。
もちろん風邪をひくような季節でもないが、さすがに服も着ていないので、とりあえず布団を肩までかけてやる。
確か今日はデートに連れて行けと言っていたはずだが、この分だと昼まで起きそうにない。
先に起きだして待つことにした。
リビングに下りると、平日でおやじも裕樹もいない。
おふくろがのんびりとお茶を飲んでいた。
「あら、今起きたの?」
「コーヒーくれよ」
「琴子ちゃんは?」
「まだ寝てる」
「あら、そう」
おふくろはコーヒーをいれて、持ってきながら楽しげに言う。
「今日はデートなんでしょう?」
「琴子が起きればな」
「そんなこと言って、昨日琴子ちゃんを寝かせなかったんでしょう?!」
思わずコーヒーを噴き出すかと思った。
おふくろはこういうことを平気で口にする。
いったい何考えてるんだ。
「まあ、久しぶりの二人のお休みだしね〜。琴子ちゃんが起きる前に私も出かけようかしら」
そんなこと言って、後ろからビデオ持って付いてくる気じゃないだろうな。
「大体お兄ちゃんがちっともうちに帰ってこないから、赤ちゃんが出来ないのよ」
「人聞きの悪いことを言うな。ちゃんと帰ってきてるし、ちゃんと仕事だ」
「わたしは早く見たいのよ〜。琴子ちゃんの赤ちゃんを」
コーヒーを飲み終えると、おふくろから半ば逃げるようにしてリビングを出た。
2階へ行くと、琴子はどうやら起きたらしい。
寝室に入ると慌てて下着をつかんでいる。
慌てすぎてパジャマはベッドの上から滑り落ちている。
何をそんなに慌てる必要があるんだか。
「…お、おはよう」
そう言って布団の中でごそごそと下着を着けているらしい。
そんな様子を見ていたら、知らずうちに笑いがこみ上げてくる。
きっと布団の中の琴子は必死だろう。
下着は布団の中に持ち込むことに成功したが、パジャマはベッドの下に落ちたままだ。
パジャマを拾ってベッドの上に置いた。
ベッドサイドに置いた本を取り上げると、一度書斎でも行くつもりで寝室を出て行こうとした。
「あ〜〜〜!」
ところが、琴子は急にでかい声を出して、俺の足を止めた。
「ったく、うるさいな」
「だって、デート!してくれるんだよね、入江くん」
俺に期待に満ちた目を向ける。
「…………まあな」
なんとなく目をそらしながら、そう答えた。
「ねえ、入江くん、ランチ食べに行って〜、服を選んで〜、買い物して〜それから…えーと」
「だったら早く着替えろよ」
「うん、今着替える」
勢いよくそう答えて、琴子は下着姿のままベッドから起きだした。
そしてそのまま固まっている。
俺に下着姿を見せるのが嫌なのかなんなのか、琴子は俺の前でもあまりまともに着替えたりはしない。
俺が着替え始めても、よほど何かに夢中になっていない限り近寄ってこない。
確かに琴子の下着姿は色気がない。
別に胸がでかいわけでもなく、腰がくびれているわけでもなく。
下着にしてもレースがひらひらしてようが、ネコ柄だかクマ柄だか。
ただ、そんなものどうだっていいと俺は思うんだが、世間一般の基準に合っていないと女は気になるらしく。
琴子には琴子なりの色気とか魅力とかよさとかがあるのに気づいていないらしい。
他の男がそれをとやかく言ってきても、わざわざ教えてやるほど俺は親切でも間抜けでもないつもりだから。
「早くしろよ」
俺は固まったままの琴子に着替えを促すために、寝室から出ることにした。
To be continued.