いつも二人で




入江くんが寝室を出ていってから、あたしは大急ぎでパジャマを着ると顔を洗いに下へ降りていった。
お義母さんもいなくて、誰もいないリビングは変な感じだった。
そしてまた大急ぎで寝室へ戻り、着替えと化粧に専念した。
でも、どんな服を着たらいいのかわからなくて、クローゼットの中を引っ掻き回して服を探していた。
そのうち部屋のドアが開いて、入江くんが呆れたようにため息をついた。

「服が決まらないの〜」

あたしの困った顔を見た入江くんは、クローゼットから適当に服を選んで差し出した。
ごく普通のサマーセーターに、スカート。
せっかく入江くんと出かけるからと思ったんだけど、入江くんの格好はいつもと同じジーンズにシャツだった。
だから、これでいいのかもしれないけど、なんか違う〜。
あたしの理想はもっと…。
ああ、だめだ。
早く着替えないとまた入江くんに怒られる〜。
あたふたと着替えを終えて、リビングに下りた。
入江くんは新聞を読んでいて、あたしを見ると立ち上がった。

「行くぞ」

「行くぞ」だって…。
ジーン…。

一人感動に浸っていると、入江くんはもう玄関だった。

「ま、待ってぇ〜〜〜」

あたしは最近買ったミュールを履いて入江くんを追いかけた。
おっと、戸締りはちゃんとしなくちゃね。


 * * *


いつまで経っても琴子の準備は終わらない。
いい加減痺れを切らして寝室をのぞけば、いまだパジャマのままクローゼットを探っている。
俺がため息をつくと泣きそうな顔になる。
このまままた泣かれでもしたら厄介なので、俺はクローゼットの中からごく普通の服を取り出した。
そのままが一番いいと思うから。
それなのに、チラッと見せた表情は少し不満気で、おそらく自分の考えていた理想のデートとかけ離れているんだろう。
それでも俺が選んだ服に文句をつける琴子でもないので、俺は再び寝室を出てリビングへと下りていった。
いつの間にかおふくろも出かけたらしい。
できればこのまま家でのんびりしているほうが、俺にとってはありがたいのだが。
どうせおふくろも夕方まで帰ってこないだろうし。
まあ、琴子が楽しみにしているので、今日くらいは約束どおりにでかけることにする。
着替えた琴子がリビングに入ってきた。
読んでいた新聞を片付けて言った。

「行くぞ」

何を考えているのか、俺が靴を履いて玄関の外に出てもちっとも出てこない。
また何か妄想してるんだろう。
…先が思いやられるな。
俺は少し苦笑しながら琴子を待った。
いつの間にかそんな騒動を少しばかり楽しみにしている俺がいる。
まあ、できれば公園のボートから落ちるなんてことは二度とやりたくないけどな。


To be continued.