おまけ 気の毒な目撃者
だから言ったんだ。
琴子はちっともわかってない。
おまえのチョコレートがまずいことなんて誰だって知ってるんだ。
それでもくれるって言うなら、仕方がないけどもらってやるかと思ってたけど、お兄ちゃん があんな風になるなんてわかってたら、絶対に絶対にもらうなんてこと思ったりしない。
たかが一粒のチョコ。
それも失敗作の苦いやつ。
実際作った琴子だって顔をしかめてた。
あれを僕に食べさせようとしてたんだから、どれだけずうずうしいんだか。
でも、その一粒の失敗作ですら、お兄ちゃんは許さないらしい。
ただキッスをしたかっただけなんて思ってる琴子は、本当に間抜けで単純なやつだ。
お兄ちゃんのあの階段の上の僕を見たときの無表情な顔。
悪いけど、僕は巻き込まれたくなんてないからな。
あー、ちくしょう、急いで出てきちゃったから、コートを忘れちゃったじゃないか。
これで風邪ひいたら、琴子のせいだよな。
どれくらいで戻ったらいいんだか。
財布も持ってきてないし、この寒空の下、どうすりゃいいんだよ。
…とりあえず本屋にでも行くか。
でも、顔だけは火照っていて、まだ熱い。
玄関で、しかも弟の目の前であれだけのキッスを繰り返す余裕があるなんて、さすがお兄ちゃん…。
って、そんな感心してる場合じゃないか。
どっちにしても明日も琴子はチョコを作るだろう。
もう絶対に試食なんて気を起こさせないようにしないと。
別に琴子のチョコなんて最初からどうでもいいんだよ!
…それにしてもお兄ちゃん、あんなに嫉妬深かったかな…。
(2012/02/14)おまけ 気の毒な目撃者 −Fin−