よし、片付いた。
掃除の終わった部屋を眺めて満足する。
隣の部屋からはまだごそごそと音がする。
リビングへ行くついでに隣の部屋の様子を伺う。
開いている部屋の中から聞こえる声。
「やだぁ、これなつかし〜。そうよね、あの時は…うふふふふ」
嫌な予感がしてそっとのぞく。
「…お母さん」
あたしは少しげんなりして部屋を見る。
お母さんの周りに散らばった…思い出とやらの品々。
去年も同じ光景を見たような…。
「ねえ、ねえ、見て、これ〜。あたしが斗南大のテニスサークルのときに使ってたやつ。また来年一緒にテニスしに行こうよ」
「それはいいから、もう片付けたら?早く片付けないと…」
あたしは部屋に入ろうとして、入り口をふさぐダンボールを蹴飛ばした。
「…ひでぇな」
上からボソッと聞こえた声。
いつの間にか後ろにお父さんが立っていて、半目になって部屋の中を見渡している。
「あ、入江くん、ねえ、今度温泉に行かない?」
先ほどまでテニスって言ってなかった?
「伊豆の話はいいから、いい加減片付けろよ」
お父さんの言葉でようやくお母さんの発想がわかった。
つまり、テニス→伊豆→温泉ってことね。
「だってねぇ」
その後に延々と続くお母さんの言葉には耳を貸さず、お父さんと二人あきれてため息をつくと、二人してそのままリビングへと向かった。
「あ、ちょっと、何で行っちゃうの〜?入江くん?」
お母さんが少しすねたように呼んでいる。
「ったく、毎年毎年進歩のないやつ」
文句を言うお父さんの声を聞きながら一人笑う。
そう言って後で結局手伝いに行くんでしょ?
振り返ると、お父さんが口とは裏腹に妙に幸せそうだった。
(2006/12/29)大掃除2−Fin−
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おまけ