ジブリってる病院1




「突然ですが、今秋からジブリ習慣です」

「何ですかそれ」
「今秋?」
「習慣?」
「今週ではなく?」
「週間ではなく?」
「何故習慣…?」
「あの夏に毎週テレビのシネマ枠でジブリ映画放映するような?」
「それ著作権に影響しないんですか?」

「数々の疑問はあるかと思いますが」

「疑問だらけですが」
「むしろ疑問しかありませんが」

「とりあえずそういうことですので」

「めっちゃ強引」
「強引すぎてそれこそ強く引くわー」
「というか、どういうこと?」
「ジブリ見たことないんですが」
「知ってるような知らないような」
「あ、わたし大好きです」
「一つか二つなら知ってる」

意味がわからないなりに急に始まったジブリ習慣。
いったいどうした斗南病院。
数々のツッコミをされつつスタートしたのだった。

 * * *

「まったく、何を考えてるんだ」

眼鏡をかけた自称イケメン外科医はぶつぶつつぶやいた。
文句を言っても誰も為す術はない。
お上が始めると言ったら始まるのだ。
そしてそれは本当に唐突に始まったのだ。

「その者、青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。失われし大地との絆を結び、ついに人々を青き清浄の地に導かん」

手術室主任が急に予言でもするかのように言った。
ちょっとだけジブリに詳しかった自称イケメン外科医はかの後輩のごとく眉をひそめた。

「それ、ナウシカのおば…」

おばばと言おうとして主任ににらまれたため慌てて口を閉じた。
何にしても目の前の手術だ。
自称イケメン外科医は目の前の手術に集中することにした。
もちろんわけがわからないこと言われても、たとえイケメンが自称だとしても、腐っても勤務医として年数を重ねている外科医であり、手術は無事に終えた。

「終了です。お疲れさまでした」

さすが、僕、という自称イケメンできる男オーラを出しつつ手術室を出たところでいきなり言われた。

「外科医が… 真っ青な手術医を着ているの。まるで金色の草原を歩いているみたい」

「いや、手術室で手術医着てるの当たり前じゃない?」

そして、金色の草原とはいったい…。

♪ラン、ランララランランラン…(自主規制)♪

「なんか、声が聞こえる…!」

ふと横を見ると、手術室ナースが揃ってあの歌を歌っていた。
そして、自称イケメン外科医の前に広げられた金色の…シート?

「この上を歩けってか?!」

♪ラン、ランララランランラン…(自主規制)♪

手術室ナースの圧が強い。

「わかったよ!歩けばいいんだろ、歩けば!」

仕方がないので、手術医を着たまま、広げられた金色のシートの上をナウシカばりに自称イケメン外科医は歩いた。
非常に恥ずかしい。
恥ずかしいが誰もツッコまないところを見るとこれが正解のようだ。

「うおおっ!
“その者 青き衣をまといて金色の野に降り立つべし”
おおっ」

主任が泣いている(多分)。

「古き言い伝えはまことであった」

そのセリフとともに金色のシートはペイっと片付けられた。
突然の撤収についていけない自称イケメン外科医はシートを急にはがされて、廊下で見事にすっ転んだ。
でも誰もツッコまない。

「ちょ、どういうこと?終わり?これで終わり?」

転んで打った腰をさすりながら自称イケメン外科医は叫んだ。

「せめて『見て!メーヴェだ。風だ、風が戻って来た。わーい!』まで言ってほしいよ」

ジブリ習慣とは、かくも恐ろしきものであった。

(2026/09/02)