Friend or Lover




Side 直樹

桔梗は確かに一番琴子を気にかけ、力になってくれていると思う。
実際いつもフォローに回って、俺も感謝している。
ああ見えて、琴子より気を使い、その辺の女よりよほど女らしい。
…まあ、本人の性別は抜きにして。

琴子の女友達は皆意外に友情に厚い。
女同士で遊びに行ったりするのも別に悪くはない。
きっとたまには電話で愚痴を言い合ったりしてるんだろうが、少なくとも俺は琴子の友達に文句をつけたことはない。
今まで、そんな友人との付き合いに文句をつけるような心の狭いやつにだけはなるまいと思っていた。

それでも、一番に相談するのは、俺じゃなくて他の誰か、ということが、これほど気になるものだとは知らなかった。
これでは、まるでただのバカだ。
俺のことで相談かもしれないというのに、いちいちそんなことを気にしている自分。
仕事は山ほどあって、そんな些細なことを気にしている余裕などないというのに。


 * * *


琴子を誘導尋問に引っ掛ければ、多分すぐに白状すると思う。
本来隠し事の苦手なあいつだから、問いただせばどこかで必ずぼろが出る。
だが、友人との約束をそこまで詳しく知ってどうするんだ?

そんな俺の葛藤を見抜かれたのか、桔梗が俺に言った。

「何か気になることでも?」

それはさりげなく、そして核心を突いた質問だった。
まさかお前と琴子との約束が何なのか気になる、などと俺が言うとでも?

「ろくでもないこと考えてなければ、別にいい」

俺はそれだけ言ってその場を離れた。
桔梗には多分伝わるだろう。
そしてまた、琴子のフォローをいれるはずだ。

「あら、そうですかぁ」

にやり、と桔梗が笑った気がした。


Side 琴子

入江くんには内緒、で始めた計画だったけど、何だか入江くんの機嫌がすこぶる悪い気がする。
モトちゃんは、ほら言ったじゃない、とばかりにあたしの計画を早々に済ませようとする。

だって、せっかくの結婚記念日よ?
おまけに入江くんの誕生日の日なんて、出張してるのよ?
どうして自分の誕生日に出張なんか入れるの?

いつもみたいに皆でお祝いもいいし、二人っきりでお祝いもしたいけど、肝心な入江くんがいないんじゃ、お祝いする意味もない。
あたしはそんな言い訳しながら、入江くんの機嫌の悪さに目をつぶろうとした。
それに夕方じゃないと手に入らないし、一人で行くのも怖いし、あれでも一応モトちゃんは男だし。
…腕力には全然期待できないけど。

あたしは一人でぶつぶつと文句を言い続ける。
誰も聞いてないし、誰にも聞かせていない。
お義母さんは21日の夜の予定を聞きたがってる感じ。
話してもいいんだけど、なんとなく秘密にしておきたい。
まあ、モトちゃんは協力してもらう手前話すしかなかったんだけど。
もっと別なものにすればよかったかな。
でも、入江くんが一度口にしたこと、あたしだって覚えてるってこと証明したかったし、何よりも入江くんの喜ぶ顔が見たい。
誕生日とは違って二人の記念日だもん。
それとも、普通に家でパーティを用意してたほうがよかったのかな。
そんな風にあたしは最後までずっと迷っていた。

そもそもその情報をくれたのは西垣先生。
西垣先生は、
「僕なら上手にその場所までエスコートできるけど、あまり治安のよくない場所だからね。どうしても入江に内緒にしたいの?
僕とデート1回で…」
なんて言うものだから、あきらめざるを得なかった。

そして同じ情報をモトちゃんが持ってきた。
「あたしの知り合いが知ってるって。え、それ取りに行くの?だって、その知り合いの知り合いって、週末にしか現れないし、高いって話だけど」
だけど、その話を聞いたからには行ってみなくちゃ。
だからモトちゃんに頼み込んだ。

一度週末にあたしは一人で出かけた。
その情報源を持っているマスターに話を聞くために。
もちろんモトちゃんの紹介って事で。
普段行かない歌舞伎町は、何だか別世界だった。
マスターはその話を通してあげるって言ってくれた。
でも次にその人が確実に来る予定は21日の夕方。
夜の歌舞伎町にあたし一人で行くのはとっても心細い。
だからモトちゃんについてきてもらうことにしたの。
本当はそんなにこだわらなくてもいいのかもしれない。
でも、ここまで来たらあたしは何が何でも手に入れるわ。


Side 幹

入江さんが聞きたくても聞けない話をあたしが握ってるって事、何だかちょっと楽しいかも。
もちろんイライラしている入江さんが、何か診療上に影響が出ないかしらとちょっと心配もするけれど、入江さんに限っていくらなんでも仕事には持ち込まないわよね。

入江さんが琴子との約束を気にしていることがわかってから、ついからかいたくなってわざとこそこそと話してみたりなんかして。
もちろん本当に聞こえたらまずいから、自然と内緒話のようになるのは避けられないのだけれど。

それにしても、なぁんでわからないのかしらねぇ、琴子は。
時々あたしに向けられる鋭い視線は、イラついた入江さんのもの。
ちょっとからかいすぎたかしら。
21日まで、あたし無事でいられるかしら…。


(2006/12/22)

To be continued.