Angel Qest



第三章 仲間


まだ黒い影の見えない城にも、徐々に不穏な影が流れ始める。
それは、これから始まる旅路の行く先かもしれない   


1.捕らわれた過去

パンダイの城の中で迷子になったコトリンは、男に連れられて城の宿泊所に入った。
宿泊所に荷物を置いた途端、呼ばれるコトリン。
意外にもすぐに王様が会ってくれるという。
コトリンは手紙を持って王様の待つ謁見の間に案内された。
今度はきちんと案内係つきで。

「ほほう、あのシ・ゲーオの娘だとか。よくここまで無事にたどり着いた。シ・ゲーオは元気だろうか」
「はい、元気です」
「そうか、そうか。
…ところで、噂ではホクエイ城が闇に包まれたとか」
「そ、そうなんです!でも、誰も気づいていなくて…」
「ふーむ、それはわしも聞いた。どうやら闇の力に対抗できるものしかその闇は見えないという。それに闇の力を払うには光の力が必要だとか」
「闇の力?光の力?」
「どうだね、コトリン。君は闇が見えるようじゃないか」
「えー、でも、あたし、鳥目で…」
「いや、いや、その闇じゃなくて…。ホクエイ城であったことを思い出せるのは、ほかにもう一人しか知らないのでな」
「はぁ」
「それに、あのシ・ゲーオの娘だ。きっと光の力を手に入れてくれるだろうとわしは思っているよ」
「あ、あの、お父さん…いえ、父はいったい…」

王様はひとつため息をついて語り始めた。

「その昔、シ・ゲーオは料理人としてこの城で働いていたのだよ」
「ああ、聞いたことがあります。この城だったんですね」
「そのとき、同じように闇の力が迫ってきて、シ・ゲーオとエツリンが光の力で闇を払ってくれたのだ」
「エツリンって…あたしの、お母さん…?」
「そう、君の母だよ。
だが、残念なことに、彼女は魔法使いとしては未熟だったために闇と一緒に吹き飛ばされてから、その後の行方は知れないのだよ」

そ、そうだったんだ…。

コトリンは今まで知らされていなかった両親の秘密を知った。
ずっと亡くなったと思っていた。
何かおかしい気配を感じたものの、昔のように光の力を失ってしまったシ・ゲーオは、その未来を娘のコトリンに託したのだった。
そして今まで放浪していた理由。
それこそがコトリンの母・エツリンを捜す旅だったのだと知った。

「あたし、絶対に光の力を手に入れてみせます!!」

力こぶしもたくましくそう宣言したが、手始めに何をやったらいいのかがわからない。

「で、えーと、どこへ行けば…」
「おお、そうであった。わしの息子も旅立つらしいので、一緒に行くがよい」
「は、はい」
「ナオーキ、よいな?」

王様に言われて出てきたのは、不機嫌そうな顔をしたあの男だった…。

えー、何て運命的なのー!

とコトリンは一人でときめいたが、ナオーキは明らかに仏頂面で言った。

「父上、俺一人で行った方が絶対に安全で早い気がする」

もちろんコトリンがむっとしたのは言うまでもない。


2.コトリンと不機嫌な仲間

非常に不本意と顔に書かれたような仏頂面で、ナオーキは旅支度をしてコトリンを待っていた。
昨日の父王とコトリンとの謁見からそれなりに騒動はあったが、それでもナオーキはコトリンと旅をすることになった。
今朝早く城の入口で待っていると言ったのに、いつまで待っても出てこない。

あいつ、まさかまたもや迷子?

そんないやな予想が頭をよぎる。
入口をにらみつけた後、仕方なくもう一度城の中へと戻る。
昨日案内した宿泊所への道をたどりながら探したほうが早いような気がしてきたのだ。

ったく、人の迷惑も考えろ。

そんな風に毒づきながら、それでも連れて行くことに同意したのは、旅の資金を出してくれた父王からの頼みでもあった。
もちろんその気になれば資金などどうにでも稼ぐことはできる。
それくらいの知恵と才気はある。
しかし、光の力を手に入れるのは、どう頑張ってナオーキ一人では無理だったのだ。
何故か光の力を授かるのは女。
ゆえに、王子しかいないパンダイ城では、ホクエイ城の王女の力を借りようと行った先で、王女は先に闇に取り込まれてしまった。

だから仕方なく、仕方なく、だ。

前に光の力を取り込んだという女の娘に託すことになったのだ。
弱い力ながら闇の力を見分け、光を取り込むことのできる者。

それが、よりによって魔法力も未熟なあの女だとは。
いまだレベル3。
とんだお荷物だ。

つぶやいたところで、宿泊所に着いた。
宿泊所ではなにやら興奮した声が聞こえる。

「コトリン、頼んだわよ。帰ってきたときに赤ちゃんが授かってるといいわね!」

…なに?

「あ、あの、でも…」
「だってお兄ちゃんときたら、いつまでたっても手を出さないんですもの」
「ですから、あの…」
「誰が何に手を出すって?!」

宿泊所の中には、コトリンの手を握り、今にも抱きしめんばかりに喜んでいるナオーキの母・ノリーン后の姿が。

「いったい何の話だよ。ったく、これから生死を賭けて旅に出るこっちの身にもなれよ」
「ま、お兄ちゃん!!コトリンにけがさせたら許しませんからね。男だったら愛する女の子は守り抜くものよ」
「…誰が誰を愛してるって?!」
「まあ、いいじゃないの細かいことは」
「よくねーよっ」
「本当にねぇ、あなたがさっさとお嫁さんを見つけてくれれば」
「まだいらねーだろ」
「私はね、娘がほしいのよ」

なんとも言えないノリーン后の迫力に、とりあえずため息だけついてその場を離れようとした。

「あ、待って」

その後をちょこちょことコトリンが追いかけてきた。

「用意が遅いんだよ」
「ごめんなさい。ノリーンさまが来て…」
「…いつの間に」
「昨日の夜、ノリーンさまがナオーキさまと旅をする女の子は誰?って来て下さって…。宿泊所は凄い騒ぎだったわ」

そう言って荷物の中を確認したコトリンは青ざめた。

あ、手紙…!!
渡すの忘れてた。

「あ、あの、この手紙…」

コトリンはナオーキに手紙を渡そうとした。

「いらない」

思いっきりそう言われ、手紙を持つ手が怒りに震える。

「あ、あなたにじゃないわよ。王様によ。昨日渡すの忘れちゃって」
「じゃあ、もういらないんじゃないか」
「え、でも」
「どうせおまえのことを助けてほしいっていう類のやつだろ」
「そうなのかな」
「そこの係のやつにでも渡しておけ」
「じゃ、そうしようっと」

そう言ってコトリンは素直に通りかかった案内係にその手紙を王様へ渡してもらうように託すと、ナオーキと一緒に宿泊所を出て行った。

「本当は特別に他のお部屋に泊めてくださるって言われたんだけど、また城の中で迷子になりそうだったから」

ナオーキは、洞窟の中では絶対にこいつを一人にせず
紐でつなぐことにしようと決心した。

「一緒に旅をする仲間が増えてよかった」
「俺はよくねーよ。でも、仕方がないだろ」
「そ、そりゃあたしはまだレベル3だけど、これから魔法もいっぱい覚えるし」
「じゃあ、迷惑かけんなよ」

それだけ言って、ナオーキは城をさっさと先に出て行った。
振り返りもせずに出て行くその後姿を見ながら、コトリンは慌てて追いかけた。
そして、ナオーキの代わりにパンダイ城を振り返った。

もう一度、戻ってこられるといいな。
ううん、もう一度戻ってこよう。

コトリンはそう決心した。

【コトリンとナオーキは仲間になった】

そして、後にその手紙には非常に重大なことが書かれていると判明したのだが、旅立ったばかりの二人はまだ知らない。


3.最初の洞窟

隣の村…とは言ってもイーリエの街からかなり離れていたが、少なくともイーリエの街を真っ直ぐ西に向かった所にその村はあった。
名もない小さな村だったが、その長老の名前からいつの間にかキョサトと呼ばれていた。
ナオーキがその村に入っていくと、村の女たちが我先にと村の中の案内をかって出た。
ところがナオーキは冷たくあしらい、コトリンはほっとした。

早速長老のところへ行くナオーキ。
コトリンはただただ後ろをついていく。
ナオーキは長老に洞窟について尋ねた。

「あの洞窟の奥には確かに昔から伝わる武器が隠されているという噂だが…。
そこへたどり着くには、いくつかの罠と迷路を抜けていかなければならないはずじゃ」
「それでは、いまだ誰もたどり着いたことがないというのは本当ですね」
「そのようじゃな」

それだけ聞くと、ナオーキはすぐに村を出て行くことにした。

「え、もう行くの?少し休んでいくんじゃないの?」

コトリンの言葉にナオーキは耳を貸さない。

「洞窟の中に入って休むし、夜までに洞窟に入りたいんだよ」
「えー、でも、夜になったら洞窟も危ないんじゃ…」
「…洞窟の中は夜でも昼でも関係ない」
「あ、そうか」

というわけで、二人は早速洞窟へ行くことに。

洞窟の入口までは順調にたどり着いた。
食料などは村で調達し、何とか2,3日でも洞窟内を歩き回ることはできそうだった。

洞窟内は当然暗く、たいまつでもなければ先へ進めそうにはなかった。
コトリンはたいまつを持ってナオーキの後ろを歩く。

「ねえ、こういう場合、先に歩く人がたいまつを持った方がいいんじゃない?」
「おまえが戦えるならな」
「…だって、まだ修行中なんだもの」
「それにおまえが先に歩いて罠に引っかかったら、俺までとばっちり食うだろ」
「そ、そうだけど。あ、それにナオーキさまは明かりの魔法が使えるんじゃなかったっけ?」
「余分なところで魔法力使いたくないんだよ」

何もできないコトリンは反論むなしく歩き続けた。
今のところほとんど何も出ないので、少々退屈になりかけたところだった。
油断したところに現れたこうもりモンスターに、コトリンは大きな悲鳴を上げた。

「い、いやー!」
「バカ、落ち着け」
「だ、だって」

〈モンスターと戦う〉
ナオーキは武器で切りつけた。
モンスターは倒れた。

あっさり、ナオーキはモンスターを一撃で倒した。

つ、強いんだ…。
さすが王子様…。

思わずうっとりと見惚れていたところに、今度は3匹のこうもりモンスターが!

〈モンスターと戦う〉
ナオーキは武器で切りつけた
モンスター1が倒れた
モンスター2がナオーキを襲う
ナオーキはダメージを受けない

「おい、手伝え!!」

ボーっとしていたコトリンの耳に聞こえたのは、少々苦戦しているナオーキの声。
どうやらわざわざ魔法を使わずに戦っているので、1匹ずつしか相手にできないらしい。
おまけにコトリンを守っているのだから、その腕は確からしい。

「えーと、えーと」

〈モンスターと戦う〉
コトリンは木の杖を振り回した
モンスター3はコトリンの攻撃をかわした

コトリンは寄ってくるこうもりモンスターを木の杖で追い払う。
振り回した木の杖が偶然ナオーキの頭に。

「おまっ…!!」
「うわっ、ご、ごめんな…」

ところが、その隙にモンスターはナオーキの背後に迫ろうとしていた。

あー、だ、だめ!!
そうだ、回復の呪文を!

とナオーキに杖を振って唱えた。

ボン!と音がして、こうもりモンスターは燃え尽きた。

あ、あれ…?

もちろんナオーキはすぐに体勢を立て直して残りのモンスターをやっつけたが、その魔法の力に目を丸くした。

〈モンスターと戦う〉
モンスターは倒れた
コトリンはレベルが上がった
レベル4になった
炎の呪文1を覚えた

「あたし、やっと魔法使えた!」
「なんだ、炎の呪文か」
「…回復の呪文のつもりだったのに」
「…ちょっと待て。それじゃあ、おまえ、俺に向かって間違った呪文唱えたんだな?!」
「だ、だって、回復の呪文だとばっかり…」
「おまえしばらく魔法禁止」
「それじゃあ、覚えられないじゃない」
「…後で俺が教える」
「え、ほんと?」

ナオーキはその不器用さと頭の悪さを認めつつ、異様にラッキー度が高いのを認めざるを得なかった。

なんてバランスの悪い…。

コトリンのステタースを考えると頭の痛くなるナオーキだった。

〔ステータスを見る〕
レベル4:魔法使い
覚えた呪文:炎の呪文1
特技:根性
体力:ほどほどにある
知力:微妙にバカ
運:思ったよりも結構いい


4.洞窟の奥へ

途中で一度休憩をして、二人はどんどん奥へと進んだ。
危うく罠に引っかかりそうになったり、時々襲ってくるモンスターを何とか協力して倒したり、ついでに魔法の修行もこなし、コトリンはちょっと疲れていた。
…が、それ以上にナオーキの疲労が深いのは言うまでもない。

ナオーキはコトリンのために(?)罠に気をつけてやり、モンスターを倒し、魔法の修行までさせ、寝床の確保に食料の調達と準備までこなしていた。

王子様、ブラボー!てなところだが、コトリンに任せるとろくなことがないということをナオーキは身をもって知ったのだから仕方がない。

そろそろ洞窟の最終地点まで来たはずだが、とナオーキは自身で作成した地図を眺めて考える。
ところがどこも行き止まりになり、どこかにもしかしたら隠し通路でもあったのかもしれない、と思い始めていた。
コトリンは何気なく壁を叩いた。

「バカッ、やめろっ」

その言葉もむなしく、すでに叩いた後。
お約束のように壁の奥から何か不気味な音が…。
ゴゴゴッと音が響き渡り、壁が開いた。
…と思ったら、溢れ出す水。

「やーーーーっ、おぼれる〜〜」

勢いよく流れる水に流されるコトリン。
ナオーキは思わず腕をつかんで引き止めた。
やがて水は引いたが、大量に水を飲んだらしいコトリンは目を覚まさなかった。
胸を押して水を吐き出させる一方、やむを得ず息を吹き返させることに。
何度か口から息を吹き込んで、ようやくコトリンは目覚めた。
目の前にあるナオーキの顔に驚いて飛びのいた。

な、な、な、な、なに?
なななななんだか、キ、キッスされてたとか?

「おい、目が覚めたなら、行くぞ」
「え?え?」

水が流れ去った後の壁の向こうには、新たなる道。
コトリンの動揺を全くものともせずに、先を行くナオーキ。

あ、あれ?
熱い抱擁は?

「…何考えてんだ、バーカ」
「だって、あの、あたしにキッス…」
「助けてやったんだから感謝しろよ」
「あ、あ、そ、そう。その、ありがとう…」

一人どぎまぎしたコトリンは、うつむきながら少し残念に思った。
それでも、胸の奥の暖かいものが消えることはなく、罵倒されながらも助けてくれたナオーキに感謝した。

壁の向こうは真っ暗で、その先に何があるかはまだわからない。
コトリンは鳥目で前が見えず、ナオーキのマントのすそをつかんで歩いた。

「この道って…」
「ああ、さっきの水の後だ。どうやらここを抜けないと先には進めないみたいだな」
「そうだったの。じゃ、あたしのおかげよね」

ナオーキは、お、おまえは…!とばかりににらんだが、暗闇の中では効果がなかった。
というわけで、コトリンは浮かれ気分のまま洞窟の中をさらに進んでいくのだった。

To be continued.