第五章 三種の神器
1.伝説のマント
セクシーマントを手に入れろという鎧の言葉に従って、
ナオーキは自ら作成した伝説の宝箱を記した地図を眺めた。
『へぇ、さすがねぇ』
「…見えるのかよ」
『そりゃあなたの頭の中に入って…』
「今すぐ出ろ」
『つ、冷た〜い』
鎧の精も口調はふざけているが、ナオーキの様子に少しばかり本気で怯えているようだ。
「勝手に頭の中に入ったりできるの?」
『うーん、ちょっと目を借りるって感じかしら。安心なさい、考えてることまでわからないから』
「なんだー、つまんないの」
『ま、いやねぇ、これだから女ってのは』
そんな二人の会話を払うようにナオーキが強く言った。
「伝説のマントなんて聞いたことがないぞ」
『そうでしょうねぇ。アタシたちにあきれた神様が無理やり作ったから』
「神様っているの?」
『神様らしき人って感じかしらね』
「つまりそのマントは誰も使ったことがないんだな?」
『そうねぇ、そういうことになるかしらねぇ』
「そのマントにも誰か閉じ込められてるのか」
『まぁ、さすが!閉じ込められてるのはアタシの相棒よ』
ナオーキはなんとなく事態が飲み込めてきたが、黙って地図をしまった。
「行くぞ」
「え、マントのあるところわかったの?」
「マントなんてあってもなくてもどっちでもいい」
『ちょ、ちょっと、それはないんじゃないの?!』
大慌ての鎧の精を無視するかのように、ナオーキは武器があると思われる洞窟を目指した。
「あ〜あ、あたし、マントも見てみたかったな」
ナオーキの苦労も知らず、のん気にコトリンがつぶやいた。
「鎧の精さんももっとうまく言ってくれれば…」
『…聞こえてるわよ』
「だって、そのマントなら、あたしが着られるかもしれないじゃない」
『…あんたが?(ぷっ)』
「…なんか今バカにされた気がする」
『だって、ねぇ?』
「もういいわよっ。それよりも鎧の精だなんて言いにくいから、名前なんてないの?」
『名前、ねぇ…。モトリンなんてどうかしら』
「…あんた男でしょ?!……モトーキで十分よね」
『いやだわー、そんな凡百な名前!!捨てたのよ、アタシは!』
「き〜めた」
途端に黙り込んでしまった鎧の精改めモトーキ。
ナオーキはやっと静かになったとばかりにコトリンをにらみつけた。
洞窟と言うほど深くもなく、あっさり宝箱は見つかった。
ただ保管してあるという感じだ。
しかし、意外な難関が待ち受けていた。
長老の話では、やはりセクシーマントを手に入れたものだけが その武器を手にすることができるという。
武器の精自らが閉じこもって、伝説の光の戦士の力ををもってしても宝箱を開けることができないのだという。
そんな迷惑な武器なぞ捨ててしまえと言いたかったが、その武器がないと伝説の戦士と認めてもらえず、この先を進むのが困難になるので、ナオーキはとりあえず口をつぐんだ。
セクシーマントのありかは、この伝説の武器が知っているという。
…でも出てこないので意味がない。
ナオーキは宝箱に魔法を唱えると、宝箱を荷物の中へしまいこんだ。
とりあえず持っていくことにしよう、と。
「えー、どうやってやったの?あたしにも教えて〜〜〜!」
この呪文は高レベルの呪文だということすらわかっていないコトリンに、ナオーキは嫌味なため息を一つ落として言った。
「おまえがレベル30になったらな」
コトリンはうっと言葉に詰まりながら、自分のレベルについて思いを馳せた。
えーと、旅を初めてわずか2週間もしないうちにレベル4だから、あと4ヶ月もすれば楽勝よね、うん。
4ヶ月も旅をする時間などないことに、コトリンはまだ気づいていなかった。
2.秘密の洞窟
第2の洞窟では苦労なしだったせいか、セクシーマントが隠されているという第3の洞窟は、やけに苦労が身にしみた。
だいたいここを探し当てるのにも苦労した。
洞窟という洞窟を入りまくった。
お陰で薬草や他の旅人が手放した武器や防具には事欠かなかった。
ちなみにナオーキといるだけで経験値だけは荒稼ぎ。
ちっとも上達しない魔法にさえ目をつぶれば、武器を持ってたくましくなったし、レベルも上がった。
第3の洞窟は偶然コトリンが滑り落ちなければ、まさか竪穴に続く鍾乳洞があるとはわからなかったかもしれない。
もちろんこれで借りは返してチャラよねと、コトリンは思っている。
おまけに穴から落ちた際にかすり傷だけで済んだとはとことん運がいい。
洞窟の中にいるモンスターはどれも小物だった。
それよりも、複雑に枝分かれした道が侵入者を寄せ付けないかのようだった。
しかし、ナオーキが持ってきた武器の入っているという宝箱が、以外に役に立った。
枝分かれのたびに正しい道を赤い光を点滅させて教えてくれるのだ。それによってどんどん進むことができた。
最初はただの偶然か罠かと何度かわざと違う道を選ぶようにしてみたが、どうやら本当に正しい道を示していたようなので、 あとは宝箱に任せ先を急いだ。
「今度は…こっちか」
なぜ正しい道を教えてくれるのか、それはよくわからないが、何にせよ助かった。
もちろん本当にたどり着けるのかどうか、正しかったのかどうかは最後に宝箱と中身を手に入れるまでわからない。
それでもお荷物を抱えて間違った道をぐるぐると歩くのは、 かなり危険だ。
おそらく何も案内なしで進んでいたら、その間に世界が滅びていたかもしれない。
やっとのことで洞窟の最終地点にまで来た。
宝箱は確かにあった。
鎧の精・モトーキは宝箱を見て(?)、
『さあ、多分そうじゃないかしら』
という適当な返事をした。
武器の入っているらしい宝箱は反応がない。
これはどういうことだろう。
ナオーキは鎧の宝箱を開けたときと同様に、コトリンと同時に宝箱の鍵に触れた。
お、王子さまの手が、手が…。
コトリンはそれだけで舞い上がってしまい、すでに上の空。
それでも鍵はひとりでに開いて、中からセクシーマントが飛び出した。
「セ、セクシー…」
それは見事なほど布地の少ない服(というよりもほとんど下着)にマントがついたものだった。
マントからひらひらと見え隠れする服がなんともセクシー。
『で、あんた、着るわけ?』
「………」
コトリンは絶句。
自分のくびれのない身体を密かに見下ろす。
思わず首を振る。
『きゃー、いい男っ!!』
どこからともなく甲高い声が響いてきた。
コトリンはその声を聞いて、さらに青ざめることになった。
3.伝説の三種の神器
コトリンは手に取ったセクシーマントから声を聞いた。
「…マントもしゃべった」
「これなら武器のほうも開くだろ」
ナオーキは甲高い声はあえて無視するように武器の宝箱を取り出した。
『げっ、なんでそれがそこに』
『あ〜ら、あんたが必要だからに決まってるでしょ』
『…モトーキじゃないの』
『だから、その名前で呼ぶのはやめてちょうだいってば』
「ほら、早くしろよ」
ナオーキに促されて、コトリンは恐る恐る手を出す。
『や、やめてーーーー!それは出しちゃダメよ』
「…何でだ」
『いやん、やめてくださぁい』
『あんた、態度が露骨なのよ』
『いーでしょ、ここ何年もいい男来なかったんだから』
『それはあんたがこんな面倒くさい洞窟にこもるからでしょ』
『だって、それはあいつが…』
「どうでもいいから、わけを言え」
『…わけ…』
ナオーキはイライラしながら構える。
さっさと開けてこの洞窟を出るつもりだった。
鎧の精・モトーキとマントの精が顔を見合わせた(ような気がした)。
『そいつが出てくるとうるさいのよ』
コトリンは今までの会話から、自分なりにいろいろ考えた。
セクシーマントはどうやらいい男に弱いらしい。
鎧の精・モトーキもどうやら男好き。
このままではライバルばかり増えてしまう。
いやもちろん精霊なるものがライバルになるかどうかは別として。
ところが武器の精は男のようだ。
ここは武器の精を出してしまうほうがライバルが減るかも。
「ナオーキさま、武器の精を出したほうが、この精霊たちを押さえるいい方法だと思うの」
こそっとナオーキにささやいたが、ナオーキは胡散臭いものを見るような目で宝箱を見つめる。
やっぱり武器を出すのをやめようかと思ったとき、モンスターが現れた。
すっかり忘れていたがまだ洞窟の中。
ナオーキはとっさに宝箱に手を置いて立ち上がろうとした。
偶然、コトリンもモンスターに驚いて宝箱に手を置いた。
カチッ。
ズモモモ〜〜〜ンと盛大な煙とともに辺りは見えなくなった。
モンスターからこちらは見えなくなったが、逆にモンスターの姿も見えない。
ナオーキは舌打ちしながらそれでも当てずっぽうに攻撃を仕掛けた。
『さあ、僕が出たからにはお任せください!
はっはっはっはっはっは…』
洞窟にその声が響き渡ったときには、ナオーキはモンスターをとっくに倒したあとだった。
「なんなんだ、この煙は!」
辺りが見えるようになって、ナオーキは怒鳴った。
誰もがその怒鳴りに震え上がる。
「…武器の精のせい?」
『おお、麗しのマナリン!あなたにお会いしたくて幾年月、長かったです』
『あたしは会いたくなかったわよ』
「ちょ、ちょっと、武器の精さん、自己紹介くらいして」
だいぶこの状況に慣れてきたコトリン。思ったより順応が早い。
一方ナオーキは、驚きが顔に出ないものの、十分怒りに満ちた顔で三種の武器鎧をにらみつけていた。
『おお、これは失礼、僕はフナーツです。…今回の戦士はあまり賢そうには見えませんが』
「し、失礼じゃないっ」
「…一緒にするな」
洞窟の奥でもめていても仕方がないので、一行はまたもやナオーキの魔法で外へ出ることにした。
これで伝説の武器と鎧は一応揃ったことになる。
4.戦士の休息
外に出ると夜だったので、そのまま野営をすることに。
ナオーキは疲労感が強く、先に寝ずの番をすると言うコトリンに任せて、身体を休めることにした。
いわゆる伝説の三種の神器が揃ったことで、より一層旅に安心感が出るものだと思っていたが、三精霊の様子を聞いていると、逆に苦労を背負い込むことになったのではないかとコトリンは思った。
もちろん自分の所業は棚に上げて。
『やっと逃げたと思ったのに、いい男は来ないし』
『あんな面倒な洞窟だと思わなかったわよ』
『マナリンのいるところならどこまでも行きますよ』
三種三様勝手なことしか言わないし、主を守ろうという気も見られない。
だいたいこんなセクシーマントを着てしまったら、とてもナオーキの前には出られない。
かと言って男好きの鎧をナオーキに着せたくもない。
おまけにセクシーマントを着ていない限り、守るのも嫌だと言う武器にいたってはどうしようもない。
荷物が増えただけだわ。
コトリンはそう思ったが、武器鎧を持っているのはコトリンではない、念のため。
「こんなんで敵なんて倒せるのかしら」
つぶやいたコトリンの上には黒雲。
夜だとばかり思っていたが、いっこうに朝は来ない。
どうやら敵地に近づいてきたので、この黒雲は敵を倒さない限り払われないものらしい。
コトリンは空を見上げ、この先を思う。
まさか自分が伝説の光の戦士と呼ばれるものになろうとは全く想像もしていなかった。
傍らで横になって向こうを向いているナオーキを見る。
口が悪くて意地悪で、とても王子さまとは思えないくらい冷たい。
でも魔法も教えてくれるし、ちゃんと洞窟の中ではかばってくれたし。
これから先もナオーキ王子がいれば大丈夫よね…。
「おい、起きろっ」
「へ?」
目を開けると、コトリンはしっかりマントに包まっていた。
おまけに、いつの間にか横になっていて、目の前の焚き火は消えていた。
「あれ?」
「行くぞ」
コトリンに交代した覚えはないが、どうやらかなりの時間が過ぎたようだ。
しかも包まっていたマントは…。
「…返せ」
素早く手から奪われたのは、ナオーキのマントだった。
「えっと、あの、ありがとう」
「眠くなったら交代しろって言っただろう」
「い、いつの間にか眠っちゃったみたいで」
コトリンは身支度を整えると、ナオーキの後について歩き出した。
薄暗く続く道を二人で歩き出す。
いよいよ目指すは敵の本拠地。
さらに闇に包まれた世界を行くことに…。
To be continued.