ドクターNと不死町の義歯団




突然もたらされた衝撃の一言に、僕たちはしばし呆然としたものの、事の真相を探るべくその訪問者に詰め寄った。
その訪問者は先ほどまで志乃さんちにいたじじばば撲滅隊…じゃなかった、えーとなんだっけ、ともかく撲滅隊の一人には違いないその人にどこからその情報を手に入れたのか、いつ聞いたのかなどを根掘り葉掘り聞くことになった。
所が詳しいことは知らされていないのか、ともかく水木さんちに来てくれればわかるとしか言わない。仕方がないので志乃さんと僕と桔梗君は、今度は水木さんちに向かうことになった。


水木さんは電話の前で呆然としていた。
受話器はかろうじて戻されているものの、今まさに電話かかってきていました、という風情だ。
「今、電話があったんですか?」
志乃さんが聞くと、水木さんはようやくハッとしてこちらを見た。
何でも志乃さんちに呼びに来た人が心配になり水木さんちをのぞいたまさにその時に電話がかかってきたという。
水木さんが内容を詳しく説明しないのでよくわからないが、どうやら息子が今借金取りに追われて、すぐに金を送ってほしい、ということだったらしい。
僕と桔梗君は首をかしげる。
「えーと、結局、本当にそれ、息子さんだったの?」
「そうですよねぇ。先にかかってきたん電話とさほど怪しさは変わりないようですけど」
水木さんは勢い込んで言った。
「何言ってんだ、俺が息子の声を間違えるわけがない!」
…怪しい。
思いっきり怪しくないか、それ。
そもそも詐欺電話というのは息子をかたって電話してくるわけで。
「だからさー、息子さんの職場に電話してみようよ。それが一番手っ取り早いんじゃないかな。どうして最初にそれやらないかなー」
その結果が本当に借金で逃亡中だったとしたら、またそこで考えればいいじゃないかな。
「よ、よし、そんなに言うならかけてやる!」
最初からかけてほしかったね。
「電話番号…、こ、これか!」
じーこじーことダイヤルの音がする。今どき黒電話かっ!
「いやー、もう骨董品だよね、これ」
僕が思わず口にすると、僕らを呼びに来た爺さんと水木さんが目をむいてこちらを見た。
「何言ってるんだ、まだまだ現役だぞ!」
そ、そりゃ失礼いたしました。
桔梗君は多分思っていても口に出さないのだろう。黒電話を物珍しそうに見ているが、僕を冷た〜く見ている。
「もしもし!」
『こちらは○○総合サービスです。ご希望のサービス番号をお選びください…』
なんかやたら機械的な声がかすかに聞こえてくる。
「…間違えた」
「冷静に、冷静に」
爺さんの言葉にも水木さんは興奮して叫ぶ。
「わかってるわい!」
いや、全然冷静じゃないよね。無理もないけど。
そう言う爺さんも志乃さんちに来た時は全く冷静じゃなかったけど。
再びじーこじーことかけてみたら。
「もしもし!」
『………』
「は?どういうことですか。やっぱり…」
『………』
「じゃあ早く出してくださいよ!」
『………』
「連絡くらいできるでしょ。お願いしますよ、こっちは生きるか死ぬかなんですよ」
…そんな切羽詰って…たね、うん。
『………』
「わかりました。では」
がちゃりと重そうな受話器を置いて、水木さんはため息をついた。
「で、どうでしたの?」
志乃さんが聞くと、水木さんは「逃げた、というのはどうやら違うようで」と首をかしげた。
「では、やはり電話は詐欺ということに?」
「でも息子本人とは連絡取れないんですよ」
「それは客船に乗って仕事をしているからということでは?」
「だからと言って父親の危機に連絡もできないなんて嘘ですよね」
「まあ、どこの海にいるか、ということもあるでしょうけれど」
ねえ?と志乃さんは僕を見た。
いや、ねえ?と言われても、豪華客船になんて乗ったこともないし、どこの海を漂うかなんてことも知らないし、連絡ができるかどうかもわからないし。
「ねえ?」
と僕はその返事を桔梗君に丸投げした。
「制限されているというよりは勤務中だから電話できないというだけでしょうから、待っていればそのうち連絡が来るでしょうよ」
「と言いいながら同じことの繰り返しじゃないか。しかも水木さん、詐欺電話にこのまままんまと騙されてお金払っちゃいそうだし」
「まだ払うとは言ってません」
水木さんとにらみ合っていると、志乃さんが思いついたように辺りを見渡した。
「そう言えば、奥様は?」
「え?あ、ああ、銀行に」
ぎ、銀行?!
思わず腰を上げかける。銀行と言ったらお金を下ろしたりお金を払ったりするところじゃないか。
「…当たり前です」
桔梗君が僕の密かなつぶやきに突っ込む。
「いや、だからさ、詐欺集団にお金払ったりしてるんじゃないかと思って」
「それは大丈夫です。振り込みではなく、直接取りに来ると…」
「もっとやばいじゃないか!」
僕たちは一気に青ざめて水木さんに詰め寄った。
志乃さんと爺さんは顔を見合わせて言った。
「ここは撲滅隊の出番です」
そ、そうかもね。
「何時ごろ取りに来ると?」
「えーと、ああ、あと30分くらいかな」
「30分!」
僕たちは慌てた。
そりゃそうだ。
思いがけず詐欺集団の一端の者が現金を取りに来るなんて、もう警察案件じゃないか。
「では、作戦会議です」
し、志乃さん?素直に警察に電話して全部やってもらおうよ。
「警察に電話しても受け取る人が必要です」
志乃さんの迫力に押され、何だかここにきて一気に撲滅隊らしきことをさせられることになりそうだった。
「とりあえず、警察、警察に電話しよう」
僕の主張は一応聞き入れられた。
「では、どうぞ」
そう言って黒電話の受話器を持たされた。
いや、重いし、ダイヤルしにくいし、携帯持ってるし!
それでも意を決して黒電話を握りしめていざ電話しようと思ったら、他のじじばばメンバーを呼び出すために志乃さんにさっと取り上げられたのだった。

(2018/12/11)



To be continued.