坊ちゃまとあたし特別編2



緩んでるキャンプ3


夕食のカレーは無事に食べ終えた。
その日は移動の疲れもあって大半の生徒もおとなしく寝入った。
…はずだったが、どうやらところどころ虫が出たとかで騒ぎになっていたロッジもあったようだ。
そんな中、一番騒ぎそうな琴子が虫をつかんでぽいっと外へ放り出したことで、思わぬ称賛を得たらしい。
そう言えばあいつは田舎にもよく行っていて、虫取りなんかも楽しんでいたようだ。
琴子がキャーと騒ぐと思っていた男子生徒たちはちょっと肩透かしを食らったようだ。女子生徒にはやや遠巻きにされたりして、琴子としてはちょっと腑に落ちないという顔をしていた。
そんなことも知らずに早々に寝ていたおれは、なんとなく負けた気分だった。

キャンプ二日目はオリエンテーリングだ。
これこそ迷子フラグの極めつけだろう。
琴子一人で単独で行動するなと言っても聞かない気がする。
大丈夫とか平気とかいう言葉を口にしたそばから崖から落ちたり、迷子になったりしそうだ。

「琴子、おまえ、絶対一人になるなよ」
「一人になる暇があったらなりたいわよ」
「そうは言ってもおまえの場合、絶対一人になったら迷子になるだろ」
「しっつれいね!そんな簡単に迷子になるわけないじゃない」

なるから言ってんだろ。

「…入江くんの言うとおりだ」

そんな会話をしていた後ろから、腕組みをして現れたのが鴨狩だった。

「確かに生徒の見守りでほぼ生徒と一緒とは言え、残った生徒がいないか後方から追いかけるだろ」
「まあ、そうね」
「いろいろ検討した結果、俺と一緒にしんがりを務めることになった」
「し、しんがり?」
「…おまえ、国語教師だろ」
「あ、し、しんがりね、しんがり」

あははとわかっていないのに見栄を張った琴子を見て、おれはちょっと遠い目になった
鴨狩と一緒に行動…。
そのほうが安全だろう。
安全だろうが…。

「最後尾を俺と一緒に行くんだよ」
「あ、なるほど。それなら大丈夫そう」

自分でも若干不安になってたんじゃないか。
おれはおれでたとえ最後尾近くに陣取ったとしても琴子をずっと見張るのは無理だ。
仕方なく鴨狩に琴子を託すことにした。

「こいつ、絶対目を離さないでください。目を離したが最後、次の瞬間崖を転がり落ちてるかもしれません」
「お、おう」

鴨狩もさすがにちょっと引き気味だ。

「それから、他に気を取られてすっ転ぶこともあります」
「あ、ああ」
「万が一けがをした場合に備えて連絡手段を絶対手放さないでください」
「ま、まあそれは当たり前のことだが」
「それから」
「まだあるのかよ!どんだけ信用がないんだ」

鴨狩が呆れたように琴子を見た。
琴子は少しばつが悪そうに眼をそらした。
色々今までやらかした実績がものをいうのだ。

「まあ、いいや。小舅並みの注意事項守っておけばとりあえずオッケーだろ」

くしゃくしゃっと鴨狩が髪をかき上げた。
そう言うところがいちいち鼻に付く。
とりあえず、小舅と言われようとあれこれと注意をして鴨狩は琴子を見守ることに同意した。
それすらも腹立たしいが。

そうしてオリエンテーリングは始まった。

 * * *

本来オリエンテーリングとは野山を地図とコンパス等で駆け回り、ポイントを経由していち早くゴールにたどり着くのを競う競技だ。
しかし、そこは甘えた小金持ちの中学生たちには無理なので、ハイキング程度の簡単なものを今回はオリエンテーリングの名のもとにひと汗かくことに。
都会の暑い日差しの下よりはまだましな高原地帯の気温で良かったというべきだ。
そうでなければ何故真夏に山登りを好き好んでやらなければならないのか。
慣れないロッジで宿泊だったのも災いしたのか、何人かは途中で脱落したようだ。
琴子は無駄に元気だった。
そりゃもう鴨狩も引くほどに。
疲れ知らずなのかよくしゃべる。
遅れがちな生徒を率いて後ろから歩いてくるのにどこを歩いているのかわかるくらいだった。

「入江くん、いいの?琴子先生と一緒でなくて」

そう言って後ろの鴨狩と琴子が並んで歩く姿を見てからかい気味に声をかけてくるやつもいた。
純粋に心配してくるやつもいた。
いいもくそもあるかよ。

「鴨狩先生、休憩地点から連絡です」
「ああ、わかった」

そんな会話を聞いた後、二人の姿は木立の向こうに消えた。
ただこちらがそのまま山道を登り続けただけだ。
少しだけ立ち止まって現れるのを待ったが、何かトラブルがあったのか音沙汰がない。
戻ろうかとしたその時、上から一人の教師が下りてきた。
やはり何かあったらしい。
トラブルの元が琴子ではないだろうが、気になるので戻ろうとしたら、その下りてきた教師に止められた。
あと数分登れば休憩地点に着くので、そこで待機するように、と。
一緒に行かせてくださいと頼んだが、気持ちはわかるが生徒を連れていけないと断られた。
こういう時、生徒というのは不便だ。
他の生徒にも促されて、仕方なく休憩地点へと向かった。
今ここでバラバラになってさらに教師の手を煩わせるのは本意じゃない。
いったい、何が起こったのか。

(2023/11/22)

To be continued.