いつも二人で




まずはランチよね。
にぎやかな駅前には結構人があふれている。
平日なだけにサラリーマン風の人やOLの人がそれぞれお昼を食べようと、オフィスから出てきているのだ。
思ったよりも混んでいて、どこもすぐには座れそうにない。

「いっぱいだね…。どうしよう、入江くん」
「昼時なんだ、仕方がないだろう」
「うん、そうなんだけど。どこかで待つ?」
「おい、あそこなら空いてるぜ」
「え、どこどこ?」

入江くんが顔を向けたそこにあったのは…。
…ファーストフード?!ハンバーガー?
な、なんで?

「す、空いてはいるけど、ラ、ランチが…」

あたしはおいしそうなお店をそれぞれ見渡しながら、その混み具合を目で追う。
少ししゃれた店には、楽しげな女の人の姿も多い。
ランチを楽しむマダムって感じだ。
平日っていっても、案外混むのね…。
そんな中、確かに手軽なファーストフードには人が少ない。
いや、いるんだけど、夕方に見るような学生の姿はほとんどないし、男の子が数人と、急いだ様子のサラリーマンの姿があった。
もごもごと口ごもるあたしは、まだおしゃれなランチを入江くんと食べる夢を捨てきれず、突っ立っていた。
そんなあたしの腕をつかんで入江くんは歩き出した。

「立ってても仕方がないだろ。さっきからお前の腹の音聞こえるし」

えっ…。
あたしは見る見るうちに赤くなった。
き、聞こえてたの?
ざわついた通りであまり聞こえないと思っていたのに。
おいしそうなランチメニューを見るたびに、あたしのお腹は確実に自己主張していた。
何せ朝ごはんも抜きだったし。
入江くんに連れて行かれるまま、あたしは結局ファーストフード店の自動ドアを通り抜けた。
途端においしそうな匂いにつられて、あたしはメニューを真剣に見つめる。

最近食べてなかったからなー。
あ、何、このエビっていうのは。
どれにしようかなー。
やっぱり照り焼きも好きだなぁ。
うーんと、ポテトはつけなきゃね。
ジュースは…。

ふと見ると、入江くんはもう注文している。

「おい、まだ決められないのかよ」
「入江くん何頼んだの?あ、じゃあ、あたしもそれがいいなー。
同じのもう一つお願いします!」
「…あ、はい」

ファーストフード店の店員さんは、入江くんに見とれて一瞬返事が遅れた。
よく見回すと、店内にいる女の人は皆入江くんを見て何事かささやいている。
でも、入江くんは気付いていない。それが救いかも。
入江くんは良くも悪くも女の人には目が行かない(…時々あたしにもだけど)。
でも、入江くんはあたしのだんな様だもん。
トレーを持っていこうとすると、入江くんが横からトレーを持ってくれた。
なんだかうれしくって、その後もニコニコしながらハンバーガーを食べていたら、入江くんはおかしそうに笑った。

「食べたらどこに行きたいんだ?」
「うふふ。あのね、理美にね、いいところ教えてもらったの」
「ふーん」

行き先についてはあまり興味なさそう。
と言うより、少し不安げ?
またあたしが何かとんでもないところへ連れて行くとでも思ってるのかな。
まあ、いいや。
入江くんに服を選んでもらうんだ。


 * * *


昼飯のために駅前を歩いていると、結構店にはこれからお昼であろう人々があふれている。
時計を見れば、ちょうど会社は昼休憩らしい。
どうせ琴子はおしゃれな店を探してうろうろするに違いない。
今もきょろきょろとどこか空いていないか挙動不審だ。

「おい、あそこなら空いてるぜ」
「え、どこどこ?」

俺が示したのは普通のファーストフード店、それもハンバーガー。
琴子の「えー、なんで?」と言う声が聞こえそうだ。
先ほどから琴子は気づいていないようだが、琴子の腹の音が鳴り響いている。
色気も何もあったもんじゃない。
それでもまだおしゃれなランチをあきらめきれないらしい。
ずっと突っ立っているのもなんなので、俺は琴子の腕をつかんで歩き出した。
琴子の決断を待っていたら、ずっと腹の音を聞かされる羽目になりそうだ。

「立ってても仕方がないだろ。さっきからお前の腹の音聞こえるし」

そう言ったら、赤くなって慌てている。
俺に聞かれているとは思っていなかったらしい。
あれほど不満気だったのに、いざメニューを前にしたら目移りしてどれを食べようか真剣に考えている。
琴子らしい。
しかし、俺が注文し終わってもまだ迷っている。
全くこいつは…。

「おい、まだ決められないのかよ」
「入江くん何頼んだの?あ、じゃあ、あたしもそれがいいなー。
同じのもう一つお願いします!」

真剣にメニューを検討した割には、俺の頼んだものが気になったらしい。
注文したものが出てきたので、琴子が持とうとするのを横からひょいと持ち上げた。
なんとなく琴子に持たせるのは不安だったからだ。
もちろんいつもいつも失敗するわけではないのだが、まだこの先もあるのにここで騒動を起こしたくはない…と言うのが本音だ。
琴子は上機嫌でハンバーガーにかぶりついている。
あれほどランチにこだわっていても、こだわらずに切り替えのできる琴子を単純に凄いと思う。
他の女だったら、こうもうまくいくかどうか。

「食べたらどこに行きたいんだ?」
「うふふ。あのね、理美にね、いいところ教えてもらったの」
「ふーん」

果たして彼女の趣味が、琴子の体型に合うかはまた別だけどな。
それに、昨日はペアだなんてふざけたこと言っていたが…。
まあ、別に俺が止めれば済むことだし。
食べ終わったトレーを戻すと、店を出てまた暑い日差しの下へと歩き出した。


To be continued.