イタズラなKissで7題



4.乱暴な説明


もしもの話。
琴子は好きなようで、よくそういう話をする。

もしももっと早く両想いだったら。
もしも見合いしなかったら。
もしも同居していなかったら。

もしも清里でのあの時、琴子が目覚めていたらどうなっていたのか。
目覚める可能性もあった。
目覚めたら、俺はどうしていただろう。
後になってそう考えたこともある。
付き合っていたのか、からかってお終いだったのか。
裕樹だけが知っていたあのキスは、後で知った琴子が結婚式の最中に言った。

「入江くん、あたしのこと前から好きだったんでしょ」

そこまで言っておきながら、今更好きだったかどうか聞くなんてバカげてる。
俺はそう思ったから、もしも好きじゃなかったと仮定したらいったい俺はどんな男なんだ、と。
卒業式のキスは確かに意地悪もあったかもしれない。
それでも、嫌いだったわけじゃないと今なら思えるから、あれだってただの嫌がらせでもないだろう。
好きでもないのに眠り込んでる女に節操なくキスをする男?
それこそありえないだろ。

もしも見合いしていなかったら、俺たちはまだもう少しあのまま過ごせたのかもしれない。
もっともこれもおやじが倒れていなかったら、という前提が必要になるわけだが。
おやじが倒れた原因が会社の業績不振だったことを考えると、結局俺は見るに見かねて会社を手伝っていたかもしれないし、その延長で結局は見合いする羽目になったかもしれない。
見合いがあってもなくても、いずれは琴子が誰かに取られる寸前になって初めて自分の気持ちを知るのかもしれない。
そこまで必要としていたことに早く気づいてよかったと言うべきか。
もう少しだけあのままどっちつかずで過ごすのも悪くはなかったのか。
ある日突然自覚して、それでも同じ屋根の下に住んで、琴子の無防備な姿を目にして平静でいられるのか。
今となってはわからない。
なぜなら、今の俺には我慢する必要もなければ遠慮する必要もないから。
恋人ではなく、夫婦だから。
全ての答えは結局同居していたことが必然で、あのまま同居していなければ、今の俺たちはなかったのかもしれない。
でも、今、同居していなかったときのことを考えるのもバカバカしいだろ。
もしもなんて話、俺には全く必要ないね。

(2011/10/31)

To be continued.