Onesided Love Story




第一章 十五歳〜嘘〜



八月

あいつは陸上部に入部したらしかった。
あまり熱心な部員ではないらしく、どちらかというとサボりがちなようで、グランドに姿を見る日のほうが少ないくらいだった。
あたしはと言うと、なんとなく美術部に身をおいたけど、
同じくあまり部に顔を出さずに気が向いたときだけデッサンをしたりしていた。
さほどうまいわけでもないあたしは、部長に熱心にやるように言われることもなく、幽霊部員が多い美術部は居心地がよかった。
八月で学校は休み入ったはずなのに、あたしはこうして学校へ来ている。
学力強化のためになぜか補習のある学校で、強制的に来なければならないのだ。
もちろん暑い夏だから冷房のない教室で授業をするのが無理なので休みのはずの夏休みなのに、とても矛盾している。
それでも2学期の成績にかかわってくるのでいやいやながらも皆ちゃんと来るのだ。
あたしは夏休みであいつに会えないかと思ったのに、思わぬ収穫につい顔がほころぶのをやめられなかった。
外の日差しはまぶしすぎて、外で走るあいつが見えない。
補習が終わった後の教室で、女の子ばかり集まって、恋の話に花が咲いた。
あの子は格好いいだの、優しいだの、いろいろな名前が飛び交う。
…その中に、あいつの名前は出てきた。
何と言うか、あいつは結構もてることがよくわかった。
それほど愛嬌があるとは思えないのに、はにかみながら女の子と話すあいつは、やはりその天然ぶりも話題になっていた。
そして、…優しいことも。
そんなこと知っていた。
アキちゃんから聞かされていたいろいろな話。
同じクラスになってから気付いたこともある。
夏休み前、掃除道具の扉が開かなくなって困っていたのを見て、必死で開けてくれた。
帰りのホームルームに間に合わなくなるからと、残りの掃除を手伝ってくれた。
誰もいない廊下で二人、黙々と道具を片付けた。
同じ班の女の子たちがごみ捨てから戻ってくるまで、さりげなく待っていてくれた。
ただ一言「ありがとう」と言うのが精一杯だった。
ほとんどかわすことのなかった会話。
二人でいたのに、あいつは何もしゃべらなくて。
二人でいたのに、何もしゃべらないあいつに話しかけることもできなくて。
黙っていると不機嫌そうで、そんな横顔を少しだけ盗み見ていた。
ただそれだけだったのに、それだけでドキドキしてうれしかったことを知られるのが怖かった。

「ねえ、ミュウもそう思うでしょう?」

ぼんやりとしていたら、突然話題をふられた。

「そ、そうなんだ?」

あたしの顔は変じゃなかっただろうか。
今はまだ、誰にも気付いてほしくない。
一所懸命ポーカーフェイスであいつの話題をやり過ごす。
同じようにあいつの話題から他の男の子へと話は移っていく。
心底ほっとしたなんてこと、ここにいる誰もまだ気付かないでいてほしい。
あたしが恋を口にする勇気を持てるまで。


(2005/10/10)


To be continued.