Onesided Love Story




第二章 十六歳〜真実〜



二月

文化祭の後、マリがあたしの作品を見た感想を話していたときのことだった。
マリがあたしの前のあいつの席を陣取っていたので、あいつは席に戻れずにあたしの隣の席の男子と話していた。
チャイムが鳴ってさすがにマリに視線を送るあいつ。
マリは慌てて自分の席へと戻っていった。
あいつは自分の席へと戻ってから、さりげなく思い出したようにあたしに言った。

「俺も見たよ、太田さんの絵」
「え?」

もっとまともな返事をすればよかった。
あまりにも意外だったので、顔を上げてあいつの背中を見るのが精一杯だった。
教室に現れた先生の手前、それ以上感想が聞けなかった。
だから、その授業が終わった後、あたしにしては珍しく思いきって声をかけた。

「…どうだった?わからなかったでしょ」
「何が?」
「あたしの絵」

あいつは少し笑って言った。

「いや、いろいろ考えた」

何を考えたの?
考えてわかったの?
そう聞きたかったけど、聞けなかった。
やっとのことで言った。

「見てくれて、ありがとう」
「うん」

たったそれだけだったけど、あたしはとてもうれしかった。
そして、その会話の後はたいしたことも話さず、席替えになった。
マリはそれを聞いて、あたしに言った。

「しかし、ミュウには悪いけど、遠藤君て何考えてるのかわかんない」
「そうかもね」
「笑いのツボが時々ずれてるし」
「あー、そうだねぇ」
「女子には優しいから、誤解されそう」
「うう、否定できないな」
「…いったいどこが好きなわけ?」
「…さあ」

マリはあたしの顔を覗き込んだ。

「まさか、今言ったところが好き〜って言うんじゃないでしょうね」
「…うーん、そうだなぁ。もしかしたら、そうかも…」

あたしはなんとなくそう答えた。
時々短気で我慢がきかない所は悪い所。
いつも曖昧に笑ってると思ったのは、ただ照れているだけだったり。
そんな風に少しずつあいつのことがわかってきた気がする。
もちろん表面的なことかもしれないけど。


暦の上では春になったけど、まだまだ寒い冬が続いていた。
そんな中、修学旅行があった。
修学旅行とは名ばかりで、なぜか雪山でスキー三昧。
しかもスキーなんてやったこともなく、雪まみれになるのは目に見えていた。
ひたすらスキーである以上自由時間なんてほとんどなく、修学旅行でカップルが成立することなんてほとんど無縁のようだった。
同じホテルに寝泊りしているのに、あいつの姿なんて見たのはクラス全員で過ごすレクリエーションのときだけだった。
それから行き帰りのバスの中くらい。
女子ばかりのホテルの部屋の中で、どこでも繰り出す話は恋の話だ。
あたしは前の二の舞は踏むまいと、今度は話にも加わらなかった。
楽しげに話している会話の中であたしはあいつの名前を聞いた。
これではまるであのときのようだ。
ああ、そうか。
あたしは話している女の子を見た。
頬を染めて話している様子は、あいつが好きだと言っている。
バレンタインにはどんなチョコを渡そうかと相談している。
そうか、もう、そんな季節なのかと思ったあたしは、どこかおかしいんだろうか。
ありのままの自分をぶつけていけるあの子をうらやましく思う。
あの子の恋がうまくいったなら、あたしはきっと平気ではいられないだろう。
彼女のときは平気だったのに。
彼女の気持ちがあいつにないと知っていたから平気だったんだろうか。
そんな風に思うあたしはきっとずるいのだろう。
自分でぶつかっていくこともないのに、嫌だと駄々をこねるだなんて。
ずっと穏やかでいたかったのに、あの子はあたしの中の嫉妬という感情を引き出した。
それが普通の恋なのかもしれない。
でも、穏やかなままではいられないのだろうか。

帰りのバスの中で、通路を挟んだ横の席にあいつは座っていた。
騒がしい中で、あたしはその存在を感じていた。
マリやミキと話していたので、ほとんどあいつのほうを見ることはなかった。
あまりに近すぎて、振り返ることもできなかった。
皆が騒ぎ疲れて眠ってしまったけど、あたしはなかなか眠れなかった。
あいつに背を向けながら、あいつの存在を感じることがうれしくて。
それでも疲れていたので、あたしも同じようにいつの間にか眠ってしまったけど、眠りにつくまで、あたしはあいつの存在を感じていた。
この感覚はいったいなんなのだろうと思いながら。


(2005/10/17)


To be continued.