Onesided Love Story




第三章 十七歳〜想い〜



六月

新緑もまぶしい初夏、夏服に変わったばかりのあいつを見ていた。
結局、あいつとは3年間同じクラスだった。
マリやミキとも同じで、3年間同じクラスの人が5人の中で、この確立はなかなかのものかもしれない。
そして、あの子も一緒だった。
あのバレンタインの日、あいつが呼び出されてチョコを受け取ったらしいのを見た。
チョコをもらって少し困惑した、それでいてうれしそうな顔。
そりゃそうだ。
好きじゃなくても好かれればうれしいし、男としてはこの日にチョコをもらったほうが自慢できるに違いない。
あたしはこの日、学校を休みたい気分だった。
渡したくても渡せない。
渡したくないのに、渡した方がいいのかと堂々巡りだ。
そのときのあたしの心を色にたとえるなら、真っ茶色だ。
何もかもまぜこぜになった色。
いっそ黒になってしまえば開き直れるのに。
胃が痛くなるほど考えた。
マリとミキはそんなあたしを見てもう何も言わなかった。
あのスキー以来、うかつにあいつの顔を見られなかった。
…そしてあたしは逃げ出した。
授業が終わると、何も見ずに帰ろうと、一目散に玄関まで向かった。
それなのに、見てしまったのだ。
まだ人気の少ない下駄箱で、あいつの姿を。
ほっとした顔をしたあの子の姿を。
あたしはあいつに見られないようにその場からも逃げ出した。
見てはいけないものを見たような気分だった。
もしもこのまま告白もせずに見守っていくつもりならば、あの場面で逃げ出す必要はなかった。
それでもあたしは美術室に逃げ込んで、あいつが帰るのを見送った。
帰って行くあいつを見ながら唇をかみしめた。
こんなにも情けないあたしの想いは、いったいどこへ行くのだろうと。


あいつは夏の大会を前にグラウンドを走っている。
それでも時々サボっているようで、真面目なんだか不真面目なんだかわからない。
あたしはそれを見届けた後、帰り支度を始めた。
少し汗ばむようになって、開いている窓からの風が気持ちよかった。
教室には誰もいないので、窓を閉めることにした。
活気のあるかけ声は、野球部かもしれない。
あのひょろりとした影は中川君に違いない。
4月のクラス替えでクラス分けのボードの前で会った。
あれから告白したかどうか聞いてきた。
してないと答えたら、何やってんのと呆れられた。

「男なんて告白されればうれしくなって、好きでなくてもついOK出すこともあるんだってば」

あたしは内心冷や汗をたらしながら、はははと笑って誤魔化した。
それからずっと、心の奥にその言葉は残っている。
あいつは結局あの子の想いを受け取らなかったみたいだけど、優しいあいつは無視することもできない。
もちろんそれはあたしにだって同じだ。
それになんと言ってもクラスメートでもあるわけだし。
優しくすることがいいのかどうか、あたしにはわからないけど、時にはその優しさが毒にもなることは知っている。
いっそのことあいつの見えないところに行きたかったけど、見えなければ見えないで気になることがわかっているから始末が悪い。
結局のところ、自分がどうしたいのかわからないままここまできてしまった。

玄関へ行き、下駄箱で靴を出していると、陸上部の連中がやってきた。
当然その中にあいつはいた。
皆がそれぞれ涼しい場所へ散っていく中、あいつは備え付けのウォータークーラーまでやってきた。
あたしにはまだ気付いていない。
このまま校門へ行くにはウォータークーラーの横を通らなければならない。
そのまま何も言わず通り過ぎることもできたのだけど、このときのあたしはなぜか、水を飲んでいるあいつの真横を通るときに声をかけた。
さすがに真横を通るあたしに気付いたあいつは、視線だけをあたしに向けた。
あたしはあいつと目があうと、とっさに言った。

「がんばってるじゃん。…じゃあね」

それだけ言うと、あたしは手を振ってそのまま歩いていった。
まさか声をかけられると思っていなかったらしいあいつは、水を飲むのも忘れた様子であたしを見ていた。
それから慌てたように「お、おう」と背中に返事があった。
なんだかそれがおかしくて、歩きながら満面の笑みであいつを振り返ると、もう一度手を振った。
あいつは半ば呆然としていて、なんとなくそんな顔も悪くないかなと思った。
後で考えれば、がんばってるのを見てたことになる発言とも取れる。
まあ、あんなに無防備な顔が見られるのなら、それでもいいかという気になった。
クラスメートの範囲としてはこれで精一杯のアプローチだった。
鈍いあいつがそれに気付くとは思えなかったから、たかが挨拶程度であいつとの間に何かが起こるとは思えなかった。
でも、そのたかが挨拶一つ言えなかったのだ。
なんて遠いクラスメートだろう。
あたしはその帰り道、あいつの呆然とした顔と自分の行動を思い出して、笑ったり、急に恥ずかしくなってうわ〜と声を出してみたりしながら帰ったのだった。


(2005/10/24)


To be continued.