Onesided Love Story




第三章 十七歳〜想い〜



九月

さすがに3年生になってから、時が過ぎるのが早かった。
なんと言っても受験生で、夏からずっと進路に迷っていた。
いつもあいつのことばかり考えているわけにはいかない。
あいつはどうやら経済学部を受けるようで、県内の大学をいろいろ受けるようだった。
あたしはごく普通に文学部を受ける予定だった。
ただ残念なことに、やりたい分野が県内の大学にはあまりなく、県外も受けざるを得なかった。
両親はいい顔をしなかったけど、大学に行く以上どうしても勉強したい分野に行きたかったのだ。
あいつと同じ大学なんて、考えていなかった。
夏が過ぎ、模試やテストが増えた。
ついこの間の実力テストの後のことだった。
順番に返された数学のテストの点数をそっとのぞいていたら、あいつはどうも今回の点がよかったらしく、得意気にクラスメートにテストをひらひらとさせていた。
あたしはと言うと、ケアレスミスが続いて平均点そこそこ。
自分の答案用紙を見ながら顔をしかめていたら、あいつと目があった。
あいつはあたしの表情からあまり点数がよくないことを悟ったのだろう。
にんまりと笑ってVサインをしてきた。
一瞬の戸惑いの後、あたしに向かってだということがわかった。
それがとても悔しくて、頬杖をついたままべーっと舌を出してやった。
あいつはそれで満足したのか、急に口元を押さえて笑いをこらえきれないようだった。
なんだかそのままでは悔しいので、次の古文の時間に返してもらったテストの点を確認すると、あたしはあいつに向かって同じようにVサインを返してやった。
なんたって古文はクラスでも最高点だったので、古文が苦手らしいあいつが敵うはずがないと踏んだのだ。
あいつは数学のときのようにテストをひらひらさせていたけど、憮然とした表情から、それは全く反対の意味らしかった。
こんなやり取りも悪くはない。
あたしは、あいつにだけはみっともない姿を見せたくはなかった。
とは言うものの、みっともないところだらけだったけど。
それでも、今日からもう少し数学にも気合を入れることになるだろう。
あいつは、もともと負けず嫌いなので、きっと次の中間テストには古文の成績を上げてくるだろう。
示し合わせたわけでも、話し合ったわけでもないけど、こういうときのあたしとあいつは妙に考えが似ている気がする。
あたしには、あいつの考えていることの半分もわからない。
わからないけど、通じ合う気がする。
時々、こうして親しげなやり取りをしてみせる。
いつもは必要なことがない限り、全く接点もなければ話すこともないというのに。
それがとても不思議だった。
マリとミキは言う。
まるで理解できない関係だと。
あたしにもよくわからないのに、理解しろと言うのは無理だろう。
あいつと通じ合う気がするのに、あいつにはふれることができない。
あいつにとってもあたしは何か気になる存在ではあるけど、恋ではない。
友人ほど親しくもなければ、ライバルになるほど気にならない。
そんな感じだろう。

九月の終わりの頃、彼女が彼と別れたと聞いて、胸の奥が痛くなった。
そんな話を聞いて数日後、あいつと彼女があたしのずっと前を並んで歩いているのを見た。
やっと暑さが和らいできた朝の通学路での出来事だった。
二人は偶然会ったのかもしれない。
その光景がどんな風にしてもたらされたものなのか知る由もない。
あたしはうつむいて、あいつと彼女に見つからないようにと祈った。
できるだけゆっくりと歩いて、少しずつ距離を開けた。
本当はどこか道を変えたりしたかったし、あいつが見えなくなるまで距離を開けてしまいたかったのだけど、残念なことにそこは学校まで一本道で。
おまけにこれ以上遅くなると遅刻してしまうかもしれない時間だったので。
学校に着いたあたしはそのままものも言わずにトイレに行き、誰もいないそのトイレで掃除道具入れの戸を蹴って八つ当たりした。
悔しかったのか、嫉妬したのか、自分に腹を立てたのか、そのときの気分をうまく説明できない。
見守ることができると思っていたけど、実はずっと恐れていた光景だったかもしれない。
あまりにも彼女といるあいつが自然だったので、見た瞬間に心が凍りついたのは確かだった。
たとえただの偶然で一緒になっただけだったとしても、あたしとではあいつのあんな顔は見られないと感じたからかもしれない。
そんなことがあってから、どこか一歩下がってあいつのことを見ていられるようになった。
それはもう恋とは呼べないかもしれない。
それでも、あたしはあいつを見ていた。


(2005/10/24)


To be continued.