Onesided Love Story




第三章 十七歳〜想い〜



一月

あたしは受験のスケジュールに追われていた。
本命以外の学校のほかにも2、3校受けなければならなかった。
もちろんそれは誰でも同じことで、あいつも同じことだった。
マリもミキももう推薦で進学先は決まっていたので、あたし一人頭を抱えていた。
あいつは噂によると推薦に落ちたので、相当荒れているようだった。
もともと短気な上に負けず嫌いなので、しばらくの間傍から見ても機嫌が悪かった。
あたしはそんなあいつを見るにつけ、なんでこんなやつを好きになったのだろうと思うほどだった。
普段は憎らしいほど淡々としているくせに、気分屋なのだ。
ところがあいつの周りの人間はあまりそれを知らないのか、急に立ち上がってどこかへ消えていくあいつのことを気にはしない。
もしかしたら知っていて放っておいたのかもしれないけど、結構あいつは孤独なやつだとあたしは思った。
そう言えば、チーム競技よりも一人でやるほうがいいという理由で陸上部を選んでいた。
実はリレーも苦手らしいし、皆が騒いでいる中、一人でボーっとしてるのもよく見かけた。
そんなことを考えると、もしかしたらあいつは彼女のことを誰にも相談しなかったんじゃないかという気さえしてくる。
普段の淡々とした姿は、ただ何も考えずにボーっとしているか、気分屋なのを隠すためなんじゃないかということもわかってきていた。
それをマリに言ったら、「やっぱり変なやつ」という答えが返ってきた。
あたしは苦笑するしかなかった。

センター試験も過ぎたある日、あいつは保健室に行ったままなかなか帰ってこなかった。
二次試験も近いので、風邪でもひいたらそれこそ大変だ。
なんとなく気になって落ち着かなかった。
この期に及んでこんなに気にしている自分に笑ってしまった。
その日の授業も終わり、ロッカーの荷物を出そうと廊下に出たところであいつを見つけた。
ゆっくりとした足どりで廊下の向こうから歩いてくる。
あたしはロッカーに手をかけながら、ついあいつを見てしまった。
あいつも見ているあたしに気付いた。
それでも目をそらせなかった。
あいつの調子の悪そうなところはどこか、つい探してしまっていたのだ。
教室に入る間際、それまで無表情だったあいつがこちらを見て微笑んだ。
少し照れくさいような笑顔だった。
自分に向けられたとは思えなかったので、自分の背後を振り返った。
誰もいなかった。
あたしは自分でも知らないうちに心配そうな顔でもしていたのだろうか。
それともあまりにもずっと見つめていたので、愛想笑いかもしれない。
とにかく誰もいない以上あたしに向けられたとしか思えないその笑顔は、その後長い間あいつを思い出すときの顔となった。


(2005/10/26)


To be continued.