恋愛の卵




3.嫉妬は好きに必要か





お互いに告白してめでたしめでたしの後は、恋愛ってどうなるんだろう。
この状態が恋愛なんだろうか。
どこまで続くの?

「坂本君」
あれからちょくちょく坂本君のいる理学部へお邪魔している。
ランチを一緒にとるだとか、講義が終わった後に一緒に帰るためだとか。
「おお、坂本、彼女が来たぞ」
理学部は男の子率が高い。わかってはいたけれど、顔を出すとなると少し躊躇する。
坂本君はまだ何か本を読んでいたみたいで、講義中の時のメガネをしたままだった。
あまりメガネ姿を見たことがないわたしにはすごく新鮮。
なんでも、メガネをするとからまられる率が上がるのだとか。
そうかな。結構いいと思うんだけれど。

「時間、過ぎてましたね。すみません」
坂本君はあれからも変わらずに坂本君だった。
敬語はいいよと言っても直らない。まあ、いいか。
学食に向かうために歩いていると、物珍しそうに見られることもだいぶ慣れてきた。
「ううん、いいの。待っていればすぐに来るのに、待ちきれなかったのはわたしだもの」
坂本君の口元が緩んだ。
それを確認できただけでもいいかもしれない。
「…クラスの連中に気を悪くしてませんか」
「してないよ」
今度はほっとしてる。
どうやら急にわたしが現れるようになったので、やっかみの対象になっているようだ。
学食でランチを適当に選んで食べる。
少しは恋人らしくなったのかな。
二人で遊びに行ったりはまだしていない。
なんだかんだと結構一緒にいるから、わざわざ遊びに行かなくても満足してるからかも。
友だちなんかには信じられないとか言われるけれどね。
坂本君と付き合うことになった、と伯母ちゃんに言ったら、「どっちが先に告白したの」と聞かれた。
何でそんなことを言わなくちゃいけないのかと思ったけれど、しぶしぶ自分のほうだと答えた。
「よしっ、さすが坂本」
意味がわからず、伯母ちゃんを問い詰めたけれど吐かず。
長谷部さんには「うわー、残念」とか言われるし。
どう思う、坂本君?と言ったら、無表情だった。
絶対何か隠してる。
どうせ伯母ちゃんには頭が上がらないんだから。
「この間欲しいって言ってたDVD買ったの。一緒に見よう」
「…次の休みでいいですか」
「うん。すごいきれいなの、完全版のパッケージも」
言葉少ない感じだけれど、そんなところも実はいいと思ってる。必要なことはちゃんと言ってくれるし。あまり周りの人はそんなにしゃべるのかと疑われるけれど。
ランチの時間が終わり、また午後の講義に戻っていく坂本君を見送った後、横から声をかけられた。
「話があるんだけど」
人のよさそうな顔をした同じクラスの男の子だった。
「ここでもいい?」
「君がよければ」
「それじゃ、どうぞ」
「理学部の坂本って、君の彼氏?」
「はい」
「そうなんだ。付き合い始めてまだ1ヶ月ってところかな」
「それが?」
「僕も好きだと言おうと思ってたんだけどさ」
「…ごめんなさい。坂本君でいっぱいです」
「…どこがいいの?」
「どこって…あなたの知らないところ。じゃあ、午後の講義に出るので」
何だか急すぎて、そのまま小走りで講義室へ走りこんだ。
ドアのすぐそばで息を切らしていると、わたしを見つけた友だちが不思議そうな顔をした。

「何だか急に告白されたんだけれど」
講義中、走ってきたわけを聞かれてそう答えた。
「坂本君以外の人よね」
「当たり前でしょ」
「あれだけ仲良くランチしてるのに、なかなかすごいわね」
「どこがいいとか聞かれたって、そんなの人に言うことじゃないし」
「…人に言えないところが好きなの?」
「そうじゃなくて」
そう言って頬を膨らませる。
でも、よく考えたら、坂本君の落ち着いた雰囲気とか、安心できるところとか、好きなところってあまりうまく言葉にできないところばかりだ。しかも安心しすぎてると足元をすくわれそうなところとか。
急に路上でのキスを思い出した。
あの時は本当に驚いた、自分が。
うわー、だめだ。思い出したら平常心ではいられない。
実はあれ以上のことはまだない。
だって、坂本君って、わたしが流されて羽目をはずさないようにきっちりしてるんだもの。
それって、わたしのほうが今夢中になってるってこと?
「やっぱり人に言えないところが好きなんだ」
わたしの慌てぶりを見て、友だちは楽しそうに笑った。

 * * *

DVDを持って浮かれて坂本君の部屋に着いてから、はたと気づく。
あれ、もしかして、わたしっていつもこんな風に何も考えもせずに坂本君のところに来ていたっけ。
インターホンを押す前に重大なことに気がついた。
あれ、坂本君、言ってなかったっけ。好きな女の子が部屋にきたら云々…。
わたしっていったい…。
でもその前に、わたしの意識がそもそもそっちに気がついてなかったりしなかった?
もうちょっとどきどきしてお部屋訪問とかすべきよね。
ううん、どきどきはしてるけれど、ちょっとピントずれてたかも。
えっと、坂本君、もしかして我慢してたりしてた?
部屋の前で考え込んでいたら、ドアが開いた。
「小峰さん?」
「あ、坂本君」
「…どうぞ」
「あ、はい、お邪魔します」
あまり深く考えるのはやめにして、とりあえずDVDを見ることに専念することにした。
並んでDVDを見ているのに、坂本君はこちらのほうをあまり見ない。DVD見てるんだから当たり前か。
わたし一人でまた盛り上がっちゃってる?
でも何て言ったらいいんだろう。
そんなことを考えているうちにDVDが一枚終わった。
「ねえ、坂本君」
コーヒーを飲んでる横顔を見ながら言ってみた。
「二人きりなのに、何もしないの?」
ぶっと坂本君が吹いた。
慌ててティッシュを渡す。ちょっと珍しいものを見ちゃった気分。
「あのね、小峰さん」
「はい」
「他の男の前では言っちゃだめですよ」
「もちろん、坂本君にだけよ」
ちょっとだけため息をついて、諭すように言った。
「何をしてほしいんですか」
何って…何だろう。
もっとくっつきたいとか、ぎゅっとしてとか、キスしてとか?
「そこまでは考えてなかったなぁ」
坂本君はしばらく黙った後、ぎゅっと抱きしめてくれた。
やっぱり坂本君にぎゅっとされると安心するなぁなんて思っていたら、今度はキスをしてくれた。
最初はやさしく、なでるように。
でもあのキスを知ってしまった今は、それじゃなんとなく物足りない。
チュッとしたことくらいならあの後も何度かあるけれど、それとは違う。
そのうちどんどん深くなって、どきどきするけどそれが心地いい感じ。
キスするだけで夢見心地なんて、幸せすぎる。
そのうち唇が首筋に。
うわ、ぞくっとする。
このまま先へ行くのかなと思ったら、わたしの目を覗き込んでいる坂本君に気づいた。
「坂本君ならいいよ」
「小峰さん、初めてでしょ」
「うん」
初めてじゃダメなの?
「このまま流されないで、もう一度ちゃんと考えてからにしようね」
「え、終わり?」
思わず言ってしまう。
「準備もできてないからだめ」
何その鉄壁の理性。
「初めてだから、ちゃんと考えて、大事にしないと」
「そ、そうだけれどね」
部屋に行くとなったら、準備くらいするものじゃないの?
それともわたしがするものなの?
でもそんなことするつもりじゃなかったら、わざわざ準備されてるのも変かも。
逆にやる気満々の初心者彼女っていうのも変、よね。
ところで坂本君は初めてじゃないの?
初めてじゃなさそう…だよね。
「坂本君は、初めてじゃなさそうだよね」
「…小峰さん…」
抱きしめられたままだから表情はよくわからなかったけど、困ってるのかな。
きっと困ってる、よね。
困ってるってことは、やっぱり初めてじゃないんだ。
そりゃ初めてじゃなくてもいいけれどさ、いいけれど、なんとなくすっきりしない。
やだ、これって嫉妬なのかも。
「ごめんね、ちょっと嫉妬したみたい。
わたしのこと、大事?」
「大事じゃなきゃ、こんなに悩まないし、途中でやめたりできません」
「うん、わかった」
少し緩んだ腕から抜け出すと、坂本君の耳元にささやいた。
「じゃあ、よく考えてくるし、今度は準備万端にする」
きゃー、大胆なこと言っちゃった。
「あなたは本当に、何と言うか…」
少し困った顔を見せてから、坂本君は優しげに笑った。
こんな顔、他の誰にも見せたくないななんて思った。

 * * *

「小峰ちゃん、どこ行くの。そんなに張り切って」
講義が終わって、次の講義までの空き時間、わたしは駅前の下着屋さんに行こうとしていた。
呼び止めた友だちのマキちゃんに答えた。
「勝負下着買いに」
「ちょ、何それ」
「何それって、そのまんまじゃない」
「坂本君相手に?」
「そうよ。いいでしょ」
「面白そうだから、付いていっていい?」
「別にいいよ。ついでに一緒に選ぶ?」
そんなわけで、マキちゃんは面白がって一緒に来ることになった。
マキちゃんは坂本君のことを見たままの印象しか知らないので、無口な大男と評価する。
「でも頭はいいし、運動神経もいいし、器用なんだよ」
そう言っても、マキちゃんはそんな場面にお目にかかったことがないので、信じられないとまで言う。
いいんだ、別にわかってもらえなくても。
「何で今更勝負下着なの」
「だって、初めてなんだもん」
「初めてって、あんた何回坂本君の家に行ってるのよ」
「週に一度くらい」
「それで、どうして何もないわけ?」
「何もないわけじゃないけれど」
「いいや、へたれだ。へたれに違いない。実は向こうも初めてだったりしない?」
「違うみたい」
「あの坂本君が…」
あのって、どの坂本君よ。
「キスだけでうっとりだもん」
「…それ、うまいってこと?」
「そうなのかな。よくわからない」
好きだから、なのかな。
でも、もっと、って感じ。
もう、やだ〜。
「何だかにわかには信じがたい事実だわ」
マキちゃんはそう言って、わたしの横でああでもない、こうでもないと下着選びに余念がなかった。
マキちゃんのほうが真剣なんですけれども。
買い物を済ませて大学へ戻ると、ちょうど中庭を歩く坂本君を見つけた。
声をかけようとすると、わたしよりも先に坂本君の後ろから追いついて並んだ人がいた。
誰、だろう。
同じ理学部の人っぽいなぁ。
タイミングを逃して、そのまま坂本君は校舎の中へ行ってしまった。

その日のバイトは、坂本君のいない日。
だからわたしも早く上がることになってる。
もしも今日来てたら、真っ先に聞くのに。
でもわたし、あの後追いかけて聞けなかった。
違うことを言われたらどうしようって思ってた。
坂本君は、今までどんな人と付き合っていたんだろう。
高校時代はどんな感じだったんだろう。
中学時代は?
小学生のときから大きかったのかな。
年に一度は今でも高熱を出すって、結構病弱の部類だよね。
外側は丈夫だけど、内側が弱いんだってこぼしてた。
お兄さんが一人いて、結婚して家の道場を継いでるって話や、お父さんは結構怖いとか、お母さんはお兄さんと似てるとか、そういう話を皆聞いたのかな。
困ってた坂本君をもっと困らせるようなこと、したくないのにな。
きっと同じ学部の人って言われてお終いな気がする。
多分それ以上でもそれ以下でもないから、その答えは正しいんだろうけれど、何でこんなに心がふさぐんだろう。

「小峰さん、そろそろ坂本にも飽きた?」
「…飽きません。長谷部さんこそ、みっちゃんに手出ししないでくださいね」
「いやいやいや、小畑さんが望んだらそりゃ応えなくっちゃ。
僕は万人に優しい男だから」
そう言って長谷部さんは、同じバイト仲間のみっちゃんに「何か手伝うことある〜?」と調子よく声をかけていた。
坂本君がいたらなぁ。
自分の仕事の時間が終わって片づけを始めていると、あきこさんが「店長がお呼びです」と。
事務室に入ると、伯母ちゃんが来月のシフト表を見せて言った。
「来月から、坂本君のシフトが少し減るから」
「え、何で」
「何でって、勉強のほうが忙しいからでしょ。聞いてないの?」
「忙しくなるかもとは聞いた気がする」
でもバイトを減らすなんて聞いてなかった。
そこまで束縛するわけじゃないけれど、今はちょうどきれいな理学部の人を見ちゃったから。いや、あの人はまだ理学部と決まったわけじゃなかった。
「それで、亜美ちゃんのシフトなんだけれど。さすがに夜遅いのは免除してあげる。みっちゃんと同じシフトで行こう」
「でもそうすると、閉店間際が困るんじゃ」
「そうなんだよね。長谷部君も来年は本格的に就職活動でしょ。本人さえ望めばうちで雇っても構わないけど、さすがに大学卒業したてで普通の雑貨屋もかわいそうだしね」
高橋さん(男)はどうなるんだ。
社員の高橋さんは、伯母ちゃんに強引に引き抜かれてきた気がするけれど。
「そういうわけだから」
その帰り道、坂本君のアパートに寄ろうかと思ったけれど、やんわりと家に帰されそうな気がしたのでやめておいた。

 * * *

翌日、理学部へ行く用事を何か見つけようかと考えた。
今までだって特に用事もなく行っていたのに、わたし、変。
「小峰ちゃん、勝負下着を使ったらまた教えてね」
マキちゃんはそう言って笑った。
「うん」
気のない返事をすると、こういう話には鋭い女特有の勘で、マキちゃんはわくわくしながらわたしの話を聞こうとする。
「何、坂本君が浮気?」
「違うってば」
「じゃあ、何で聞かないのよ」
「そうなんだけれど。なんとなく聞きづらいっていうか」
「行けばいいじゃない」
「うーん、そうしようかな」
そんなわたしたちの元へこの間の告白君がやってきた。
「何で名前知らないの」
マキちゃんがささやく。
「知る必要ないかなと思って」
「一応クラス一緒だからさ」
彼は一緒にランチに行かないかと言った。
坂本君と約束していたわけじゃないけれど、その気もないのに彼と一緒に行くのは何だか違う気がして断った。
だって、もし、坂本君がその光景を見たら、わたしのようにもやもやするかもしれないし。
少しくらいはもやもやしてほしいけれど、今はわたしのほうがもやもやだし。
…恋愛って難しい。

結局マキちゃんとランチに行くことにした。
ランチの帰りに坂本君を見かけた。
数人と一緒だったけれど、その中にあの女の人もいた。
女の子という風にはとても言えない大人っぽい人。あれで同じ歳かな。
いつもみたいに普通に話しかけようか。
「小峰ちゃん、行かないの?」
「うん」
わたしらしくない。
わたしらしくないと本当に思う。
「いいから行っておいで」
背中を押されて駆け出した。

「坂本君」
いつも呼びかけるのはわたしばかり。
それは不満じゃない。
だって、呼んで振り向いてくれる瞬間が好きなんだもの。
「先行ってて」
坂本君は一緒に歩いていた人たちにそう言った。
「…あの、さっきの人たちは?」
「一緒の実験班の人たち」
「実験班…そうなんだ」
「何か気になる?」
「なるよっ」
坂本君は驚いた様子でわたしを見た。
「実験班の人たちとは確かにずっと一緒に実験をしていくので、大学にいる間は一緒に行動することが多いと思います」
うん、知ってる。
「あんなきれいな女の人もいるなんて思わなかったから」
「…あの人は…新谷と言って、あれでいて男顔負けに厳しい人ですね。俺があまりしゃべらないので、無言なら無言でもっと早く手を動かせとか、へたれとか、いろいろ言われてます」
「そんなのは関係ないでしょ。バイトも減らして、あのきれいな人とずっと一緒なんて」
「バイトは…減らしてくださいって言った覚えはないです。まだそこまで忙しくないですよ」
「そう言われたんだもの」
「俺は小峰さんほどもてませんし」
坂本君はわたしの顔を覗き込むようにして言った。
「小峰さんで手一杯なんで」
それはわたしが学食で言った言葉に似てる。
もしかしてあれを知ってるってこと?
でもわたしが言ったのは、坂本君でいっぱいってことだよ。
坂本君も気になってたなら、何か言ってくれたらよかったのに。
わたしなんて、一緒の学部で同じ班にきれいな人がいるってだけで気になっちゃうくらいなのに。
もう、こんなに坂本君が好きだって気がついちゃったよ。
「…坂本君の意地悪!
今度、部屋に行くときは覚悟してなさいよ!」
ちょっとだけ怒って坂本君に向かってそう叫ぶと、わたしは中庭を走って逃げた。
もう、もう、もう、坂本君の馬鹿。
わたし一人で嫉妬して馬鹿みたい。
背の高い坂本君は、誰かと一緒に歩いていてもすぐにわかる。
それだけ女の子が見てるって事なんだからね。
わたしは大学の門まで走ってきてから立ち止まった。
…部屋に行って、覚悟するのはわたし、だよぉ。
恥ずかしくなって、邪魔になるのも構わずその場に座り込んでしまった。
どうしよう、わたし何言ってるんだか。
その後の坂本君のあきれっぷりを想像すると、次に部屋に行く勇気が出るだろうかと思ってしまった。

 * * *

インターホンが鳴る。
もうこのまま帰ったりしない。
どきどきしながら坂本君が出てくるのを待つ。
「はい」
坂本君が顔を出して部屋の中に入れてくれた。
「久しぶり」
そう言うと、坂本君は中へどうぞとばかりにスリッパを勧めた。
部屋に入ってすぐにわたしは言った。今言わないと言えない気がするから。
「ちゃんと考えてきたし、ちゃんと準備してきたからね」
坂本君はうん、とうなずいた。

勝負下着はマキちゃんと買いに行ったけれど、今度は妊娠しないように考えないと、ということで、お店に女の子向けに売ってる避妊具もちゃんと買った。もちろんレジは自分で打って、ばれないようにするのは一苦労だった。
ばれても構わないといえば構わないけれど、坂本君がまた困った顔するだろうな、とか、長谷部さんにいろいろ言われるだろうなと思って。
マキちゃんに言わせれば、そんなの男が用意してるはずでしょと言う。
でも男任せはいけないって言われてるし。あ、これは伯母ちゃんの教育。
もうシャワーも浴びてきた。
準備万端で、どっからでも来い状態よ。

そんな気配を察したのか、坂本君はわたしに落ち着くようにと紅茶を出してくれた。
もう初夏なのに、熱い紅茶で飲むのも大変だったけれど、飲むのに時間がかかった分、少し落ち着いたかも。
でもちょっと熱かった。
「小峰さん」
紅茶のカップを置いたら、坂本君はその手を取って引っ張った。
わたしの体は簡単に坂本君に抱きとめられて胸の中に。
「坂本君、後悔しないよ、大丈夫」
「やっぱり後悔すると思いますよ」
「…そう?」
「今日は途中でだめと言われても無理ですからね」
「…うん」
坂本君の顔を見上げて、腕を首に回すと、今までで一番激しいキスをした。
キスの音だけが聞こえて、ぞくぞくして、もどかしい思い。
薄着だからあっという間に坂本君の唇が首から下に来てるのも気づかなかった。
坂本君の体温を直に感じる。
坂本君の吐息を肌に感じるたびに、わたしの吐息になるみたい。
どうしていいのかわからないから、坂本君のなすがまま。

「ねえ、あの肌についてる赤いしるしって、どうやってやるの?」
「…あれは、つけるのも大変だし、つけられるほうも痛いですよ」
「え、そうなの?よく体中についてる子もいるけれど」
「そんなにつけてほしいなら、ためしにやってみますか」
「…うん、どうせもう痛いもん」
「…それを言われると…」
坂本君が苦笑する。
「今回だけですよ。こんなきれいな肌につけるのはもったいないですから。あれは赤の後は紫になって黄色になって…」
「うん、いいから、やってみて」

そうやってつけられた跡は、思ったより目立つ場所につけられた。
ああ、そうか。
坂本君のものって感じだね。
人は誰かの所有物ってわけじゃないけれど、やっぱり誰かにはわかってほしい独占されてる感じ。
こうやって抱き合っても、きっとこれからも怒ったり泣いたりするんだろうな。
できれば、笑いあっていきたいけれど、半分は坂本君の努力も必要だからね。

「で、ラブラブなのはわかったから、坂本君はやっぱりうまかったわけ?」
「え、やだ〜」
「やだって」
「夢見心地レベル2って感じ」
「…あー、そう、幸せそうね」
鏡で身も心も坂本君の証を見て、わたしは一人微笑んだ。


(2010/01/30)


To be continued.